論:古本屋をやるということ。

古本屋の大先輩「街の草」の加納さんと、「二号店」やオンライン古本市などに挑戦する
「古書みつづみ書房」の三皷さん。お二人の対談から、新しい古書店像を探ります。

加納成治 かのうせいじ
尼崎市生まれ。学生時代からの本好きが高じて、会社勤めを辞め、1985年より武庫川町に古本屋「街の草」を始める。

三皷由希子 みつづみゆきこ
豊中市生まれ。印刷会社勤務を経て2016年伊丹に「古書みつづみ書房」を開店。21年3月尼崎・杭瀬中市場に「二号店」をオープン。一箱古本市など古書イベントの企画・運営に携わる。

古本屋をはじめたころ

加納● 店を開いたのは、1985(昭和60)年、35歳の時やったね。元々、印刷会社に勤めていて、本を読むのは好きやったし、古本屋でもやろうかな、と。学生時代は文芸部に入ったりしてた。古本屋は目指してなるものじゃなくて、「これやったら生きていけるんじゃないかな」くらいの気分で出来たよ。昭和60年代というのが、そういう時代でもあったかな。

三皷● 私は2016年に自分が住んでいる伊丹にオープンしました。若い時から夫婦で古本屋巡りが趣味で、特に夫の蔵書がすごくて定年後の夫婦の居場所として「古本屋もいいな」と話してました。そんな夫が東京に単身赴任していた時期にますます本を買い込んでて。「これどうする?置く場所ないで?」と、家の蔵書を整理してもらって1000~2000冊から店をスタートしたんです。そんな夫も今春退職したので、そろそろ仕入れとかはシフトしていきたいんですけどー。

加● 蔵書から商売を気安く展望できるくらいだから、古本屋というのは、やっぱいい商売やね。

本を買いに来る人たち

加● 店を始めて一番に来てくれたのは子どもたち。漫画を目当てにしてね。結構、新しい漫画も入って来てたんよ。その後は、おばちゃん。料理や編み物、手芸の本などを探しに来てたね。その次がおっちゃん。通勤の時に読む小説とか、それとグラビアも売れたかな。

でも尼崎の人は、あんまり本読まへんかもな、西宮や芦屋の人に比べたら。最近は、高齢化もあるかな、地元のお客さんは減ったね。たまに来てたあの人、ずっと来てないなー、という人がいるもんな。まあ、元々、そんなお客の来る店でもないけど(笑)

古本屋好きってどんな人

加● 中学生くらいから岩田さん(岩田書店・七松町)とか文殊さん(文殊屋古書店・立花町)とか行ってたな。店のおばちゃんに「そんなところから引っ張り出さんといて」と怒られながら本の山からお目当てを見つけたりして。

三● 私は小学校の頃からさんさんタウンにあった「伊丹文庫」によく行ってました。100円均一コーナーでばかり本を漁ってた。

加● 古本好きってのは、古本を求めて訪ね歩くような人種やね。ウチの店にも、別の街から来てる人が多いかな。長いと半日くらい居てるよ。

三● 私もそうです。「古本」っていう看板を見たら入りたくなる。本がある場所があったら、入って見てみたいタイプです。

加● 書店の店主て、暇そうに見えてるかもしれんけど、店に居て意外と本読めんのよ。店に置いている自分も読みたい思ってて、内心売りたくない本に限って、意外とすぐに売れたりするね。さすがやなー、というものを見つけて行かれるわ。

三● ほんま、そうですよね。そういう本に限ってすぐ売れる。よく見てはります。私は人が集まれる「本のある場所」が好きなんです。お客さんが「おっ」って声だして知的好奇心をメラッとさせて、本を手に取る瞬間を見るのも好きです。

古本屋の魅力とは

加● まちの古本屋にも、100年を超えるような本がいっぱいある。自分が生きられる時間より長い時間を経た本が、その辺にゴロゴロ転がっている、ってことが面白いところ。古本屋は時空を超えるんやな。そういう店は、まちには少なくて、同じ時間軸を持ってるのは、古道具屋や骨董屋くらい。だから、誰かにとっては宝物になるものをただの紙くずのように粗末にしたくない。欲しい人にうまく手渡せたらという思いから、何十年も店の棚に並び続ける本があるな。まあ、そんな悠長な商売やっててええんかな、とも思うけど(笑)

街とともにある店

加● 武庫川に古本屋を開いて、35年経つけど、思えば昔はこの辺も活気があったな。街も一緒に歳を取ったって感じ。でも、いつか新しい人が来て、その人が回していけば、また街は回っていくんじゃないかな。そして、新しくなった街で誰かに「あの頃、この辺に『街の草』があったな」って言ってもらえたらええかな。


対談構成/香山明子