【今こそ行きたい地元本屋】小説に映画に。今注目のコバショ 立花のしゃべれる本屋

全国から注目される本屋さんが尼崎にある。立花商店街の小林書店、通称コバショ。小林由美子さん、昌弘さんご夫婦が経営されている。なぜか「ここで本を買いたい」と思ってしまう魅力あふれる本屋さんだ。小説のモデルになり、ドキュメンタリー映画も作られた。

ただ話をするだけでも

小林書店 立花
尼崎市立花町2-3-17
10:00~19:00 日休
TEL 06-6429-1180

魅力の源泉はどこにあるのだろう。「みんな『買いに来る』というより、しゃべりに来るんよね。まちの本屋さんは、安心できる場所だと思ってるんです。子どもが『本屋に行ってくる』といったら、親も安心するような。そういう場所じゃないかな。ちょっと行って、ちょっとしゃべろかと」(由美子さん)。

本屋は「安心できる場所」。その言葉に思いが込められているように、彼女の口からは、目の前の一人一人を大切にされてきたエピソードがあふれ出してくる。阪神大震災でも、被災しながらお店を開けた。

店内ではビブリオバトル(書評合戦)も開催。
立花商店街のアーケードを抜けたところにある。

「ガラスが割れ、店も被災した。でも本は壊れていないから。シャッターを開けたら、途端に人が入ってきて…。『怖かったね』『大丈夫?』と言い合った。堰を切ったように話して、何も買わずに帰っていったんやけどね。(笑)その時、本屋ってただ話をしに入ってこられるところだって思った。いまも、80歳90歳のお年寄りがやってくる。家では、『同じこと言うて』と聞いてもらえなくても、ここならしゃべれるし、私も聞くやん」。

ここで本を買う理由

1時間ほどの短い取材中にも、コバショには常連さんが入れ替わり立ちかわりやってきた。「映画見たよ」と声掛けにきた人、立ち寄ったついでに魚やお菓子を手渡す人。その都度、由美子さんも、「こないだはありがとう」とか、「○○はどうなん?」と声をかける。取材中でなければ、きっとそのまま立ち話が盛り上がったのだろう。まちの居場所としての魅力あふれる本屋さん。だからこそ、みんな「ここで本を買いたい」と思うのかもしれない。「小さな店だからこそできることがたくさんある。でも、個人の店はだんだんなくなっていくやろうね。それでも、地域に一軒や二軒のみんなのシェルターになるような店が残っていってほしいなぁとも思います」。そう語る由美子さんには、夢があるそうだ。

ずらりと並ぶ傘を販売する物語は本誌第54号でも紹介。
ちょっと座れるベンチ兼本棚。
軒先には移動式ワゴンも。

「この店を閉店するときは、紅白の幕を張って、自分は飲めないけどお酒を置いて、道行く人にふるまって、『お世話になりました』ってお礼を言うて、閉店するのが夢なんです」。

お礼をちゃんと言って店を閉めたい。人を大事にしてお店を守ってきた由美子さん昌弘さんのコバショがそこに現れているような気がした。

読んで観るコバショ作品

出版取次会社の新入社員が訪れた町の小さな本屋。店主との出会いを通じて成長する感動の物語。小林書店がモデルとなった小説『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』(川上徹也・ポプラ社)2020年12月発売


小林書店の日常を見つめたドキュメンタリー映画 『まちの本屋』(監督・大小田直貴)はミニシアターを中心に全国で順次公開。2020年製作


取材・文/中平了悟