【尼崎書店事情】欲しい一冊を取り寄せてもらう。街の本屋さんへ、もう一度。

本と言えばすっかりアマゾンで買うものになってしまった。確かに利便性だけを考えれば、品揃えも少ない小さな街の書店で買う機会が減るのも無理はない。しかし、このままなくなっていいとも思えない。尼崎の書店事情はどうなのか。兵庫県書店商業組合第3支部(尼崎支部)の支部長を20年近く務める細見盛文堂の店主・細見昌和さんを訪ねた。

開口一番、「いい話はないですねえ」と苦笑する細見さん。それもそのはず尼崎市内の書店数は減少の一途を辿っており、組合への加盟店舗数は最も多かった昭和61(1986)年の56軒から今や18軒にまで減った。「売り上げの減少だけでなく後継者がいなくて店を畳むケースも多い。少子化で本を買う人そのものが減っている影響もありますね」。人口減少というマクロな問題も街の書店にとっては痛手になっているようだ。

現在、細見盛文堂の売り上げの中心は配達によるもの。朝8時頃に到着する荷物をほどき、9時半頃からまずは近所への配達。さらに11時過ぎから今度は離れた場所を周り、ようやく落ち着くのはいつもお昼過ぎ。配達先はすべて合わせると200軒近い。まだまだ元気な細見さんだが、今年で77歳。重労働であることも書店が減る理由の一つだろう。

細見盛文堂 西難波
西難波町4-6-16
9:30~18:30 無休
TEL 06-6481-2212

ところで、実は書籍は出版社に在庫があれば、送料無料で取り寄せることができる。「あんまり知られてないんちゃうかな」と細見さん。この店にも、よくご近所のお客さんが新聞広告を切り抜いて持って来る。書店を介するとちょっと時間はかかるけれど、明日必ず届かないと困る本などあまりないはず。1冊届いたら、受け取る際にまた別の本を注文して、読みながら待つのもいい。自分の好みを知ってもらえば、おすすめの本を教えてもらえるかもしれない。書店に行く機会は自分でつくれるのだ。

「家内が亡くなってからは一人でやってるんです」という細見さん。聞けば細見盛文堂は昭和16(1941)年に亡き妻の両親が開店したのだという。細見さんが夫婦で店を継ぐことになったのは26歳の時。「両親からどうしてもと頼まれてね。私たちと同じ篠山出身の遠縁にあたる人だし、断れなくて(笑)」。勤めていた明石のゴム製品メーカーを辞め、未経験の書店経営にチャレンジした人生を振り返って、「好きなように生きてきただけ」と懐かしそうに笑う。

こうした物語はオンラインでは決して手に入らないもの。ほしい本が見つかったら、どの本屋さんで買おうか、お店の人の顔が思い浮かぶ人生は悪くないはずだ。


取材・文/大迫力