【今こそ行きたい地元本屋】市場の中に「二号店」。一号店はどこ?みんなの本屋ができるまで

ステイホームのよき相棒「本」。せっかく手に入れるならローカルでごきげんな「地元本屋」をたずねて

NO BOOK, NO LIFE

二号店 阪神杭瀬
尼崎市杭瀬本町 1-18-12 杭瀬中市場内 11:00~16:00 木曜と店番がいない日休
twitter @2510kuise
Instagram @nigoten_amagasaki

市場で古本屋をしたいー。三皷由希子さんが杭瀬を訪れたのは2020年の春。伊丹で「古書みつづみ書房」を営みながら、関西の古書店仲間と古本市を企画する彼女が「いろんな古本屋の2号店を運営したい」という構想を持ち込んだ。コロナ禍で大型店が休業する中、街の本屋のありがたさに注目が集まっていた矢先のことだ。

しかし20年7月、市場で火災が起こった。本誌第61号で紹介した若者の活動拠点「amare(あまり)」も被災し、杭瀬の町衆たちは多くのボランティアの力を借りながらその復旧に追われた。連夜の掃除や瓦礫の処分を経て、ここに本屋を作ることになったのは20年10月。火災からわずか3カ月で新しい店作りがはじまった。

南部再生バックナンバーも販売。
本箱つくる日。
近所のお米屋さんからもらったロッキングチェアにちなんで「ロッキンチェアーズ」と呼ばれる店番チーム。
軒先の均一本には市場の常連の姿も。
入り口には大きな当番表が書かれている。

材料は近隣の「今井材木店」から提供を受け、DIYパーツを扱う「GASAKIBASE」の足立繁幸さんがデザインを監修した。70個の本箱づくりには50人を超える人が集結。本棚には、三皷さんが呼びかけた良質な古本店からの選書が並ぶ。「古本屋だけでなく、ここに関わるみんなが自分の2号店として使える場所に」という思いから店名はそのまま「二号店」として21年3月にオープンを迎えた。

と、ここまででも十分にドラマチックだが、目玉は独自の運営方法にある。親子、イラストレーター、主婦、大学生、大学教員といった一緒に本箱を作った総勢38人の顔ぶれが日替わりで店に立つ。その日の売り上げの2割が店番に入る仕組みだ。

ボランティアでもバイトでもない街へのかかわり方。鮮魚や精肉、惣菜店と軒を並べて、本を通じて人と出会う、本屋の醍醐味を教えてくれる場所が杭瀬に誕生した。

まずはおさえよう!データでみるニッポンの本屋

リサーチ・文/齊藤成人

日本の出版業界全体の市場は、(公社)全国出版協会によればピーク時1996年の2.6兆円から1.6兆円(2020年)まで大きく減少している。㈱アルメディアによる調査では、実店舗の書店数は1万店を割り込み、特に100坪以下のいわゆる「街の本屋」が全体に占める割合は52%と、書店の大型化が進んでいる。

日本出版㈱による調査『出版物販売額の実態』では、書店経由の書籍販売額8575億円(2019年度)に対し、インターネット経由の書籍販売及び電子出版物販売額は増加傾向にあって5743億円と、もうすぐ逆転しそうな勢いである。コロナ禍で大型書店に休業要請がなされ、街の本屋のみならず、リアルな書店はますます厳しい立場に追い込まれるだろう。またブックオフといった新古書店も緩やかに減収傾向だ。

厳しい話が多い書店業界だが、「古書店」関連では明るい話題も。新刊本よりも古本は利益率が高いことから、今、個性的な古書店を開業する個人が続々と増えているという話だ。業界誌『本の雑誌』2021年5月号でも、「本屋がどんどん増えている!」という特集が組まれるほど。

先の調査では、古書店の市場規模は300億円程度だが、全国古書籍商組合連合会の加盟者数や、Amazonのマーケットプレイスの状況をみると、実際はその倍くらいはあるのではないだろうか。古本だけではなく、カフェを併設したり、雑貨を販売したり、中にはネットだけで古書店を開業する人、あるいはそのミックスなど。本好きにとっては、ありがたいニュースである。


取材・文/若狭健作