論:酒場で生まれた最高のフェス

尼崎に野外音楽フェスがあるのをご存知だろうか。今年もAMA FESが10月28日に尼崎の森中央緑地で快晴のもと開催され、盛況のうちに幕を閉じた。絶好のロケーションにサイケデリックなアートやテントが立ち並ぶ様子は、その開放感から「日本のコーチェラ 」【※1】との呼び声も(ごく一部で)高い。2011年からはじまったアマの野外フェスについて、実行委員長の井上裕二と本誌ライターであり、フェス研究者の永井純一が語り尽くす。

永井 まずはフェスをはじめたきっかけを教えていただきたいんですが、井上さんは尼崎出身ではないんですよね。

井上 そうなんです。アマに引越ししてきて、26歳ぐらいの時に立花でシェアハウスに住んでたんですね。で、アマにハマって。すごくパワーがあっていいところだなと。みんな、自虐的なんだけど地元愛が強い(笑)。その頃に今のお店をはじめるんですけど、色んなことが新鮮で、アマをおもしろがっていたんです。それで、何かおもしろいこと、カッコイイことをしたいなと思ったのがはじまりです。で、会場を探すところからはじめて、2011年の秋に第1回目を開催しました。

永井 ちょうど2000年くらいに全国でフェスが増えて、10年頃は第2次フェスブームというか、手作りのローカルフェスが増え始めた頃ですね。近隣地域でもいろんなフェスがはじまった頃で。

井上 僕たちも素人ばっかりで、ブッキングの連絡入れるのもドキドキするような手探りの状態でした。ただその頃は単発のイベントが多かったんで、自分たちは続けてやりたいと思ってました。

永井 最初は、たしか今のような無料フェスではなかったですよね。

井上 はじめた頃は会場も今とはちがって、有料で4~500人規模でやってました。ただ、13年に大雨が降って、収支的にも精神的にも大きなダメージが残ってしまって。で、お客さんに「またやらへんの?」って聞かれ続け、実行委員やスタッフにも悔しい気持ちがあったんで、2年のブランクを経て、無料フェスとしてもう一度やることになりました。

永井 なぜ無料フェスになったんでしょう。また無料にしたことで変化はありましたか。

井上 無料化することで、公園の占有料金がなくなって制作費を抑えられたというのはあります。実行委員会としては、続けていくためにリスクをかけない、お金をかけない運営を心がけるようになりました。運営費は主に出店料、ドリンク代、投げ銭で賄ってます。お客さんに関しては裾野が広がって、子供連れが増えたりして、今は1000人以上が遊びにきてくれます。

永井 無料フェスではドリンク代が収入源になっているというのは、あまり知られていないかもしれないので、強調しておきましょう。その他にもワークショップやマルシェの充実など、回を重ねるごとにフェスとして充実していると思います。今後の方向性や展望はどうでしょう。

井上 「音楽フェス」にこだわりたいっていうのはあります。というのは、尼崎はデカい市民祭があるじゃないですか。市民祭の為に帰省するっていう人もいるぐらい求心力がある。だからそれをもうひとつやるっていうんじゃなくて、あくまでも音楽に特化したイベントをやっていきたい。
 もうひとつは、リユース食器を使ったり、ゴミの削減をめざしたり、自然環境にこだわっています。もともとアマは環境が悪いイメージがあるので、それをよくするというのが実は裏テーマとしてはあります。会場である中央緑地を100年かけて森にするプロジェクトに共感して、アマフェスでも植樹をやってます。

永井 いろいろお話を伺ってて、タイミングや土地柄に後押しされて、なるべくして今のアマフェスの形になっているような印象を受けたんですが。

井上 そうかもしれないですね。昔は役所なんかに行って「フジロック【※2】みたいなフェスをやりたい」って伝えても「何それ?」っていう感じだったんですけど、今は「音楽フェス」という言葉が通じやすい。それに音楽好きな人は大阪か神戸に遊びに行くと思ってたけど、アマにも意外とたくさんいるし、遊びに来てくれることもわかってきました。

永井 たしかに会場に行くと、ヒッピー風の人がたくさんいて、「普段はどこにいるんだ?」っていう(笑)。

井上 それと、よく「酒場生まれのフェス」って言われるんですが、お客さんとの距離が近くて直に声をきけるのがいいですね。けっこういい声が聞けてるんで、なお嬉しい。

永井 ほめられて伸びるタイプですね(笑)。

井上 ほめて欲しいですね(笑)。

永井 たくさんほめられて、今後もアマフェスが発展していくことを期待しています。

井上 また来年、中央緑地で会いましょう!

【※1】米カリフォルニア州の郊外で毎年4月に行われる音楽フェス。世界的に注目度が高く、その年の音楽とファッションのトレンドはコーチェラで決まるともいわれる。

【※2】新潟県湯沢町で毎年7月に行われる音楽フェス。今日に続く日本のフェスの先駆的存在。


永井純一

1977年、尼崎市生まれ。神戸山手大学現代社会学部准教授。博士(社会学)。著書に『ロックフェスの社会学』(単著、ミネルヴァ書房、2016)など。

井上裕二

阪神尼崎にて今年で10周年を迎えた飲食店「ラリパッパカフェ」を経営するかたわら、AMA FES実行委員長をつとめる。