フード風土 52軒目 尼いもクッキング

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

尼いもをフルコースで味わってみる

尼いものことはよく知ってるつもりでいた。

江戸時代から尼崎南部で栽培されたサツマイモ。地元では地蔵盆の風物詩で、京都の料亭でも珍重されたが、昭和初期の台風や高潮で絶滅。2000年、大気汚染公害からの再生の象徴として復活栽培が始まり、今では毎年、貴布禰神社で奉納祭が開かれる。最近では『大坂オナラ草紙』(谷口雅美)という児童文学作品にも登場。江戸時代にタイムスリップした少年が、尼いもを食べておならをすると、現代に戻ってくる──。

だが、よく考えると味を知らない。ちゃんと食べたことがない。なんということか。聞きかじりではなく、実際に尼いもをかじらねばならない。

尼いもは現在、西宮の畑で栽培中。生産量の関係で一般流通はないが、小学校の給食に出たことも。いもご飯が炊けるセットなど、商品開発の動きもあるとか。

というわけで、十数年ぶりに芋掘りに参加し、その収穫をいただくことにした。9月の好日、老若男女50人で掘り出した芋は440キロ。酷暑と豪雨にも負けず立派に育っていた。

料理をお願いしたのは、片寄眞木子先生。食文化の研究者で、尼いもの普及を目指す「芋っ娘倶楽部」代表。その活動から生まれた厳選レシピ本もある。

「尼いもというのは特定の品種ではなく、尼崎で作られたサツマイモの総称。『四十日藷(しじゅうにちいも)』などが、かつての味に近いと言われています。甘みの強い最近の改良品種と違い、ほんのり甘いぐらいなので、おかずにはちょうどいいんですよ」

いもご飯、さつま汁、さつまいもコロッケ、つるの佃煮。デザートにさつまいも入り寒天ゼリーまで付いた先生お手製の尼いもづくし定食。伝統の郷土料理らしい素朴さの中に、素材を活かす工夫が隠されている。

たとえばコロッケ。「玉ねぎは使わず、肉は鶏ミンチ。つぶした芋と混ぜる時にしょうがのしぼり汁を加え、一晩寝かせて味をなじませてます」。そのため、まろやかな味わいで、ジャガイモよりも和の風味が強まっている。

いもご飯とさつま汁には、細く長いものを使い、崩れないよう最後に加える。その食感、香ばしさ、ほのかに広がる甘みは、実に「芋々しい」。つるの佃煮は、どんな献立にも合う万能の一品。余分を持ち帰り、酒のアテにさせてもらった。

これは尼崎名物になる味だ。歴史を参照しつつ、新たに生まれた尼崎城のように…と独り言ち、尼いもレシピをいろいろ試す秋深し、なのである。


52軒目 尼いもクッキング

片寄先生編著のレシピ本『尼いもクッキング』は尼崎南部再生研究室で販売中。1冊1000円
TEL:06-6438-1852 info@amaken.jp