左門橋を封鎖せよ

河川の氾濫から尼崎を守る防潮鉄扉。国道2号線に架かる左門橋を封鎖して、豪雨や台風に立ち向かう人たちの仕事にせまった。

毎年7月に行われる鉄扉開閉訓練のようす。


左門橋防潮鉄扉
普段は道路の陰に隠れて見えないが、水害の恐れがあるときはディーゼルエンジンで動いて尼崎を水害から守ってくれる、赤い鉄製の門扉。兵庫県の施設だが、操作は地元自治体である尼崎市に委託されている。高さ4.4m、長さ23.4m、厚さ1.2m、重さ40t。毎年7月上旬の合同訓練の参加者は600名とも。


国道2号線、大阪市との境にある左門橋防潮鉄扉は、尼崎の水防の要だ。海から川にかけてぐるりと堤防が囲む市域だが、阪神間の大動脈である国道2号線まで閉め切るわけにはいかない。そこで可動式の鉄扉を設け、水害のおそれがある時には国道を封鎖して扉を閉じて、浸水から街を守る。府県の境にあることから、開閉の判断は府県が協議し、市職員が現場で巨大な鉄扉を操作する。警察や消防も一緒になったこの一大訓練が、毎年7月の深夜に実施されていたのだが…。

「西日本豪雨で今年の訓練は中止でしたが、その後の台風と豪雨ですでに3回も鉄扉を閉めています。こんなこと29年働いてはじめて」というのは市河港課の藤井大輔課長。特に9月4日に上陸した台風21号は壮絶だった。午前10時半、県の指令を受け、新田昭係長が現地へ急行。「いつもなら軽ですが、あまりの強風に課長からセダンで行くよう指示されました。それでも車は風で揺れるし、目の前に看板が落下し怖かったですね」と新田係長は振り返る。

本庁舎で関係機関との調整にあたった藤井課長と、現場で風雨に耐えながら報告を続けた新田係長(奥)のコンビ。
最大で1m以上冠水した左門橋はまるでプールのよう(尼崎市河港課提供写真)

現場にはさらなる試練が待っていた。午後1時の鉄扉閉鎖後、高潮で橋が冠水。左門橋には水と泥、大量のゴミが流入した。停電や通行規制で、兵庫国道事務所からの重機は到着しない。新田係長からの現場報告に、会議室で藤井課長が反応した。「ポンプ車なら排水と路面清掃ができる。すぐに消防局に出動を要請しました」。この判断と消防局の臨機応変な対応で、翌日午前2時18分に復旧。こんな華麗な連携プレーがあったことを私たちは知らない。