風と尼ロック
人知れず高潮から尼崎を守ってきた海辺の要。尼ロックにある集中コントロールセンターに潜入し、その仕事ぶりにせまる。
「水面より道路が低いのがよくわかるでしょ」と双眼鏡をのぞく出口さん。
兵庫県尼崎港管理事務所、通称「尼管(あまかん)」。職員たちは兵庫県の水防指令が出る前から、伝統的に「尼管待機」と呼ばれる体制を組み、多い時は20~30人の職員が事務所に集結し高潮や豪雨に備える。即座に班に分かれて、市内10数カ所に点在する防潮扉や陸閘、樋門を閉めて回り、ポンプ場などに配置され事態を見守る。遠隔操作でも開閉できるが、不測の事態に備えて現地へと人を送るのだ。
海抜ゼロメートルが市域の3分の1を占める尼崎の海岸線は、海抜5.7メートルの高さの防潮堤と「尼ロック」と呼ばれる閘門で守られている。河川水位と潮位、降雨状況などを監視しながら、運河内の水位を一定に保つ集中コントロールセンターが西海岸町の地先にある。
尼崎の水防の最前線は24時間365日稼働している。
ボードに映し出される水位をにらみながら水門の開閉やポンプ場を操作する。
昔から水害に弱いと言われてきた尼崎だが、2018年9月の台風21号で西宮や芦屋では大きな被害があった一方、尼崎は一部の浸水被害にとどまっている。「まちの財産ともいえる閘門と防潮堤に何十年も守られてきたんです」と話すのは所長補佐兼施設課長の出口浩さん。
しかし、台風21号では歴代最高3.53mもの高潮が尼崎港に押し寄せた。「30年以上のベテラン職員も『こんなんはじめて』というほどの風と波で、閘門が本当に持ちこたえられるのかと不安になった」と振り返る。西日本豪雨や台風21号をきっかけに「ついに想定外を想定しないといけない時代になりました」と尼管職員たちは、静かに次の災害に備えている。