論:夜の市長と、ナイトライフ観光のすすめ 日本政策投資銀行 齊藤成人

オリンピックだ、インバウンドだ、爆買いはもう終わりだ。と、観光をめぐる動きがにぎやかだ。尼崎市役所にもついに「観光」という名のついた部署「観光・地域づくり担当課」が誕生した。そこで地域活性化に関する調査を数多く手がけてきた金融マンに聞いてみた。尼の観光ってどうすればいいんでしょうか。

観光業界は明るいニュースが多い。10年前まで日本を訪れる外国人旅行者は年間800万人程度だったのに、今や3倍の2400万人を越えるまでになり、それだけ業界に手数料や交通費、宿泊費として落ちるお金が大きくなっているからだ。

でも、いくら日本に観光客が来たとしても、その人達にお金をおとしてもらわないと、地域としてはまったく潤わない。単に人が来るだけでは「観光公害」が起きるだけだ。

観光と飲食店のいい関係

夕暮れのOS通り

そんな中、観光客増加の恩恵を、直接地域にもたらす手段として注目されているのが「ナイトライフ観光」である。ようは、観光客にもっと夜の街でお金を落としてもらおう、というものだ。これまでの日本では、観光とは昼間にするもので、夜の観光で稼ぐなんてことはあまり想定されてこなかった。観光系の団体・会議をみても、不思議なほど飲食関係者は参加していない。

しかし、よくよく考えると、観光客が飲食など夜の観光シーンで使うお金というのは、地域にダイレクトに落ちるお金であり、地域の観光消費額を拡大するうえでも重要なはず。日本の外食産業は、8割以上、地元の個人・小企業が担っているので、大資本に資金が吸い上げられることもなく、地域にお金が循環する。飲食店は人件費の固まりのようなビジネスなので雇用も生みだす。

例えば、尼崎名物の「スナック」。ビジネスモデルをみると、仮にお客が5000円を支払えば、そのうちの3000円はママや女の子のの人件費にまわっていて、お酒や乾き物にかかる原価は1000円にも満たない(参考「TKC経営指標平成27年版」。業種黒字企業平均値/人件費対売上高比58.9%、原価率16.1%)。でも、その3000円はママさんが地元で使うだろうから、生きたお金として地域に循環する。

もう一度行きたい「夜」を

名所・旧跡など一度いけば10年はいかない。逆に観光地で思いがけず美味しいものを食べた、良い接客を受けた、などの体験があれば、数年内に必ず再訪する。ナイトライフ観光が充実していることは、リピーターを増やす意味でも重要であって、もっと地域は、観光資源として「夜」というものを売り出していくべきだろう。

ただ、夜の経済活動が活発になればなるほど、昼間にないトラブルの発生が懸念される。当然、地元住民と観光客との軋轢も生まれるだろう。そうした問題を解決する方法として、最近ヨーロッパで話題なのが「夜の市長(ナイト・メイヤー)」制度だ。市民投票などで選ばれた「夜の市長」が、夜の街における地元の思いと行政の政策との間の調整を行い、観光客、地元客に地域にお金をより落としてもらうような環境をつくりあげる。名誉職に近いかもしれないが、「市長」がいることで、夜の街でも冷静に調整機能が働く格好だ。ちなみに、有名な、アムステルダムの「夜の市長」のミリク・ミラン氏はプロモーターだが、尼崎に「夜の市長」が誕生するとしたら、スナックのママあたりが選ばれるのだろうか。


さいとうなるひと

1973年生まれ。本研究室研究員のかたわら、金融機関で担当した航空・空港プロジェクトで訪れた空港は200カ所。空港ファン歴20年あまりの銀行員が見てきた航空業界最新事情を紹介しながら、やさしく解説した『最高の空港の歩き方』(ポプラ新書)を今年6月に出版。