THE 技 100年の技は自転車から車いすへ

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

「ガタつきやヘンな音を放っておくと、簡単に直せたものが、だんだんひどくなる、いつもと違うと気付くことが大切」という石本さん(写真右)
石本自転車 塚口本町1-16-14 TEL:06-6421-0724 10:30~19:30 火休

石本雅映(まさてる)さん(60)は、大正10年創業、尼崎最古の自転車店「石本自転車」の3代目店主。介護福祉士の友人に「車いすもできるだろう」と言われたことが始まり。車いすは、簡単な故障でも販売元からメーカーに送り2週間はかかる。当時は自転車のように身近に整備ができる環境ではなかった。

長年の自転車整備の技術が役に立てばと、石本さんは平成26年に「車いす安全整備士」の資格を取得した。

車いすにはメーカーがたくさんあり、個々のつくりが異なる。「構造は左右対称なので、左側が壊れていたら右側の仕組みをよく見て理解する」のだとか。まずはよく見る。ものづくりの基本を教えてもらった。

「うちで修理した車いすにはすべてカルテがあります。お客さんからの電話で過去の修理の状況や消耗部品の交換時期など定期的なメンテナンスに役立つので」という石本さんならではの工夫も光る。

石本さんの修理の評判は広まり、介護施設からの出張依頼が増えた。「施設を訪ねると、少し手を入れれば使える車いすが30台倉庫に眠っていたんです」。

中でも多かった故障が「パンク」。といっても、ムシゴムが緩んで空気が抜けているだけの場合も少なくないのだとか。こうした簡単な整備なら、施設の職員にもできるように、と整備講習会も開いている。

「左右の動きは均等に、バランスが良くないと片方に負担がかかって壊れる原因になります」。「利用者がケガをしないよう金属のバリ(トゲ)に注意を」といった確実で丁寧な指導は、弱者でもある利用者を考えてのことだろう。

後進を育てようと、資格取得のための講座も自店で開く石本さんの元には、市内の自転車店主や他業種からも受講生が集まる。それでも車いす整備士の数はまだまだ足りないのだそうだ。

100年近く続く尼崎最古の自転車店。3代目店主は受け継がれた自転車修理の技術を、次の時代に役立てようと技を磨いていた。


取材と文/岡崎勝宏(おかざきかつひろ)
大工さんと間違えられる設計士