フード風土 48軒目 市場食堂

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。

シャッターを開いて定食を

市場や商店街の空き店舗のシャッターをどうやって再び開けるかは、どこの街でも積年の課題だ。新しい店を誘致する、買ったものを持ち込めるフードコートにする、地域のイベントや子育て支援に活用する…いろんな方策があるが、一人の店主が立ち上がり、そのすべてをやってしまった例が尼崎にある。

杭瀬中市場にオープンして約2年の「市場食堂」。この場所、当連載で紹介したこともあるお好み焼きの老舗だったが、6年前に閉店してしまった。

「普通の店ならシャッターが1、2枚なんですけど、この物件は間口が広くて5枚もシャッターが下りてしまった。すっかり市場が暗くなり、これはどうにかせんといかん、と」

この日はもっこす亭のハモの天ぷら400円をプラス。まぐろカツやチキンステーキを載せた市場カレー、水・日曜限定のハンバーグ定食(各680円)も人気。※今年の「みんなの杭瀬食堂」は8月で終了。また来年の予定。

動いたのは、すぐ隣で惣菜店「もっこす亭」を営む石原和明さん(52)。毎日40種類もの惣菜を作る中で市場の実力は知り尽くしている。地元で仕入れた食材を使って大衆食堂をやろうと決意した。

「池永米穀店のお米、宮島庵の豆腐、玉水園の黒豆茶…。市場の専門店の食材をお試し感覚で味わってもらえるし、うちの惣菜を持ち込むのもOK。お年寄りがトイレや休憩に立ち寄る場所もできる。一石二鳥にも三鳥にもなるでしょ」

お向かいのひらの鮮魚店の魚を使うお魚定食は680円。二種類あって、一つは旬の魚の日替わり。もう一つは定番のサバの煮付け。おお、これぞ定食の中の定食!と迷わず選ぶ。

出てきたトレイの上の品数、バランス、彩りは思わず見惚れるほどだ。大きなサバの切り身と横に添えた夏野菜の揚げ浸しは甘辛の煮汁でつやつや光り、小皿にはだし巻き、煮物、豆腐、漬物。ご飯と味噌汁はお代わり自由。サラダは果物付き。定食という名の完璧な小宇宙が地元店の食材で構成されている。

「ひらのさんの魚、人気ですよ。お造り定食の場合は、皿だけパスして、さばきたての刺身を入れてもらうんです」

次はそれだな。酒も付けて。

石原さんはこの店で、周りの商店街の人たちと「みんなの杭瀬食堂」も始めた。月2回、子供たちにカレーや焼きそばを無料で振る舞う※。「最初は50人来たら大変やなと言ってたら150人来た」と笑うが、子供につられて学校の先生や若い親たちも顔を見せるようになった。

叩けよ、さすれば開かれん。シャッターは開くためにある。■松本創


48軒目 市場食堂

尼崎市杭瀬本町1-19-2杭瀬中市場内
11:30~14:30 木休
TEL:06-4868-2565