尼崎コレクションvol.25《リモナデ広告(りもなでこうこく)》

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

明治生まれの名産ドリンク

この絵は、「理想的清涼飲料井澤製リモナデ」のコピーに、着物を着た女性が「リモナデ」を持つ姿が描かれた広告の原画ですが、では「理想的清涼飲料井澤製リモナデ」とはいったい何でしょうか?

実は「リモナデ」は英語では「LEMONADE」と書きますから、つまり「レモネード」のことなのですが、アルファベットの綴りをほぼそのままローマ字読みして「リモナデ」と読んでいるのです。それでは詳しく説明しましょう。

「井澤」というのは築地で薬局を営んでいた井澤家のことです。井澤家は江戸時代は木綿を扱う屋号「木綿屋」という商家で、代々、清三郎・清兵衛を名乗っていましたので「もめんせい」の略称で呼ばれていました。その後、薬種業へと転業し「もめんせい」から3文字を取って商号を「モンセ」とし、明治期には「モンセ」を冠した目薬や胃酸等の薬品を製造・販売し、「へのへのもへじ」ならぬ「へのへのもんせ」の顔文字絵がキャッチコピーとして使用されていました。その「モンセ本店薬局」が明治後期から製造・販売していた清涼飲料水が「リモナデ」で、政府が1903(明治36)年に大阪で開催した第5回内国勧業博覧会で褒状を受賞するなど、日本各地で開催された数々の博覧会や品評会に出品して多数受賞している、尼崎の名産品、特産品のひとつでした。

築地は1995(平成7)年の阪神・淡路大震災で液状化現象が起こるなど大きな被害を受け、大規模な震災復興事業が行われることになりました。当時、震災で被災した歴史資料等を救出する活動を行っていた尼崎市教育委員会では、復興事業により取り壊されることになった井澤家の倒壊寸前の蔵に学芸員が入って歴史資料等を救出し、その後、当時の御当主の御厚意により、救出資料を含めた井澤家に関わる歴史資料を一括で尼崎市教育委員会にご寄贈いただきました。そのなかの1点がこのリモナデ広告原画ですが、実はこのとき、リモナデの実物も1本寄贈していただいています。おそらく現存唯一のリモナデでしょうが、さすがに開封して味を確かめる訳にはいかないですね。

「モンセ本店」は現存しませんが、「モンセ分店」は今でも三和本通商店街で薬局を開いておられ、「へのへのもんせ」のキャッチコピーが現役で使われています。

お城ファンも見に来てね!文化財収蔵庫

9:00~17:30 土日祝も開館(月曜休館)
●南城内10-2 TEL:06-6489-9801


桃谷和則●尼崎市教育委員会学芸員
前号で紹介した「尼崎・近代交通の始まり」展はおかげさまで盛況でした。感謝です。