フード風土 57軒目 はしもん

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。

揚げパンとビールとわたし

本誌56号、尼崎のおやつ特集で特に目を引かれたのが「酒屋さんのカレーパン」だった。〈尾浜の酒屋さんの中にある揚げパン専門店。もっちりとした生地に、ひき肉がたっぷり詰まっていたカレーパンは、中辛のルーと玉ねぎの甘味がベストマッチ〉とある。生地と具はベストマッチでも、酒屋と揚げパンとは不思議な組み合わせ。聞けば、立ち飲みもやっているらしい。酒のアテにするのか?

というわけで訪ねた尾浜の橋本酒店。入口脇に「あげぱん はしもん」の看板がかかる一角があり、ショーケースが置いてある。甘口と辛口の2種類あるカレーのほか、きのこシチュー、紫いも、チーズとコーン、そばめし、きなこ、黒ゴマ…。

「夕方にはケースを店内にしまい、ここが立ち飲み屋の入口になります」と、はしもん店主の橋本克久さん(41)。ふだんは建設現場で働いているそうで、日焼けと体格の良さがまたパン屋とのギャップ。8年前に店を始めた経緯が面白い。

以前、牛乳販売会社に勤めていた橋本さん。販促の新事業でパンを開発することになり、責任者に抜擢された。「当時はパン屋をめぐり、講習会に出かけ、会社でも一日中、生地や焼き方を研究してました」。それがいよいよ発売間近になった頃、諸事情から退社。せっかくパン作りを研究したのだからと、実家の一角で商売を始めた。でも、なぜ揚げパン専門に?

ドーナツ、きなこ、あんフライは100円。その他はすべて150円。ちなみに、筆者の好みは辛口カレー、きのこシチュー、じゃがいも。配達は前日までに注文を。母の鈴美さんがカウンターに立つ立ち飲みは16時から19時まで。

「設備が少なくて済むんですよ。酵母の発酵器とフライヤーぐらいで。それに、焼くパンは追求し始めるとキリがない。ちょっと技術を覚えたぐらいではできない職人の世界なんです」

肩に力の入らない「身の丈商売」ということか。とはいえ、メニュー開発には余念がなく、当初5種類で始まったのが、この日は11種類並んでいた。訪問販売やイベント出店を重ねるうち、常連客もつかんだ。今では店頭販売よりも、揚げたてを届ける配達の方が多い。

と、そんな話を残暑の昼間、立ち飲みカウンターでジョッキを傾けつつ聞いた。よく冷えたビールに揚げたての惣菜パン。変わり種コロッケを食べるようなもので、これは案外いける。飲んだ帰りのお土産にもいい。

「趣味みたいなもんですけど、注文が入るうちは続けます」という「ほどほど」なスタンスが、街とのベストマッチを生んでいるのかもしれない。


57軒目 はしもん

尾浜町1-24-16
10:00~売切次第終了
日・第2第4土休
TEL:06-6429-1784