THE 技 印刷物を守る、地味にすごい技術。

最先端技術、職人技、妙技、必殺技…アマで繰り出すプロのワザに迫る

南部再生を正しく楽しく読めるよう、目を光らせてくれている人がいる。尼崎印刷株式会社で校正を担当している石手洗真亜子さんだ。

尼崎印刷の校正者の役割は大きく分けて三つある。一つは顧客からのテキストや写真が指示通りの形になっているかを点検する「引き合わせ」。二つ目は、校正の段階で誤字脱字・事実誤認がないかを確認する「素読み」。三つ目は印刷前の「最終確認」。

知識と集中力が要求される校正者にとっての技術とは何だろうか?

「内容に入り込むのではなく客観的に眺めるような感じでしょうか。この文は意味が通っているか、助詞は間違っていないかを確認する。『なんで見つけられるの?』とよく聞かれるんですけど、『見えるものは見える』としか言いようがないですね」

鉛筆、消しゴム、マーカー、赤ペン、ルーペ、電子辞書、付箋。これらが校正の七つ道具。

ふとした疑問があれば、すぐに電子辞書や資料を当たって調べる。大切なのはそれに気づく経験と感覚。そして、誤りがあれば朱書き(訂正指示)を入れる。ところが、何でも指摘すればいいわけでもないらしい。

「間違いかどうか微妙な場合は、作者の意見が重視されるべきですので、鉛筆書きの付箋を貼るなど、『疑問出し』という形でお伝えしています」と話すのは、同じく校正担当の角谷薫さん。赤字の指摘は高圧的に感じる人もいるというからなかなか難しい。

南部再生もそうだが、最近は完全データ(レイアウトが完成した状態)で入稿するのが主流。その際、出力紙を一緒に渡すのだが、稀にこれと入稿されたデータが異なる場合がある。それを防ぐため、尼崎印刷で出力したものと出力紙をライトテーブルの上で重ね合わせてチェックする。上の紙を高速でめくる動作を繰り返すと、上下で違うところがあれば、パラパラ漫画の要領でその部分が動いて見える。

通称「あおり」と呼ばれる作業だが、石手洗さんはこの途中に文章を眺め、南部再生の校正をしてくれているという。「完全データですから、本来は読んではいけないんです。ただ、気になっちゃう(笑)」。

印刷会社は刷るのが仕事であり、本来ならばやる必要はない。しかし、気づいた間違いを伝えると喜ばれることが多く、「お金を払うので素読み校正してほしい」という依頼も増えてきた。

社長の田治宏敬さんは、「校正が他社との差別化や顧客の囲い込みにつながっている」と話す。地味にすごい技術が、街の印刷会社を助けている。


取材と文/大迫力(おおさこちから)
編集者。以前、雑誌の発行年を間違って出してしまった経験あり。校正の方には頭が上がりません。