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9月2日から私の杭瀬通いが始まった。初めて下車したこの町は、魚の匂いやおばちゃんの呪文のような呼び声で溢れている。中が見えない喫茶店や、やってるのかやってないのかわからないスナックがひしめく細い路地、突然現れる卓球場に気持ちが高まる。店も客も年齢層が高いが、インスタグラムって伝わるんかなと思いながらも「映える写真を撮らせてください」と片っ端から声をかけた。メモを片手によそ者感丸出しの私にも、親切に答えてくれる。

巷で女子高生に人気のタピオカは杭瀬のママたちにも大人気。「海南堂」には店主も把握しきれない程のお菓子と、年代物のおまけコレクションが並んでいる。偶然通りかかったただならぬ雰囲気のバイク屋のオーナーは「普段取材は断ってるけど、杭瀬のためなら」と撮影OK。半年前にオープンした「おまかせや!」ではカレー、おでん、揚げ物が、500円で食べ放題。たらふく食べた後も「唐揚げ揚がりましたよ。食後のコーヒーはどう?」と店員さんが満面の笑みで声をかけてくれる。「伊藤青果店」では、店の人と客が一緒になって「海老と炊いたら美味しいんや」とずいきの食べ方を教えてくれた。

この5日間で尼崎の中心は杭瀬になった。今までは名前も知らない町だったが月一で訪れたい町に変わった。


難波和香(なんばのどか)

「南部再生」編集部にインターンに来てしまった大学3年生。「インスタやってるんやろ?映えるやつ撮ってきて」とスマホ片手に杭瀬を歩かされた。