サイハッケン 橘公園に現代アートが眠っていた。

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橘公園の片隅。市役所喫煙所の裏にその巨石は静かに眠る。

市役所に隣接する橘公園。噴水や花時計のある広場は、身近な憩いの場として親しまれている。実は、その一角に不思議な現代芸術が潜んでいるという。なんでも大きな石のような作品らしい。ということで、さっそくリサーチだ。

その作品は「3トン石」。公園の植え込みに、ひっそりと隠れている。普通の石と見過ごしてしまいそうだが、とても人の力では動かせない立派な自然石で、ところどころに白いペンキの跡が残っている。改めて芸術作品として観ると、何やら存在感を放つ佇まい。

作者は大阪在住の美術家・今井祝雄さん。1946年生まれの今井さんは、世界的に評価の高い具体美術協会の最年少メンバーであり、その解散後も映像表現やパブリックアートなど幅広い活動を続けている。 この3トン石はどういう作品で、何故ここに置かれているのだろう。ちょうど今井さんの個展が大阪で開催されており、ご本人に話を伺うことができた。

大阪万博で展示されていた当時の写真
快く取材に応じてくださった今井祝雄さん。アートコートギャラリーにて。

「もともとは万博に出展した作品だったんです」1970年、賑わう大阪万博の会場に数多くの現代彫刻が飾られた。具体の会員だった今井さんが制作した3トン石もそのひとつで、古河パビリオン前に展示された。自然の造形である石の上から白いペンキを注いだ作品は、自然と人工のせめぎあいを意図したという。

高度成長期、万博の熱気に包まれて創作に打ち込んだ当時を「いちばんいい時期やったね」と振り返る今井さん。万博終了後、彫刻の多くは万博協会から近隣に寄贈され、本作も翌年の秋、市役所の傍に移設された。今ではペンキも剥げ落ち、公園の片隅で息を潜めている。

高校生の頃、具体に触れて芸術の道へ進んだ今井さんは「ひとの真似をするな、今までに無いものをつくれ」という具体の精神を創作の根幹に持ち続けている。青春時代に手掛けた3トン石は思い入れのある作品で、その現状を「何とかしたいと思ってるんです」と打ち明ける。「定期的に色を塗り直すとかね」とアイデアは膨らむ。尼崎で眠っていた現代芸術が万博の記憶とともに現在に再生する。そんな企みが実現する現場を、ぜひ目撃してみたい。


取材と文/伊元俊幸
涙腺とかお腹とか、いろいろユルくて困っちゃう中間管理職