THE 技 お客様第一の思想が生んだ「中通し」。

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

両側の扉を開け放つ「中通し」。尼崎駅ではなんば線から神戸方面の電車への乗り継ぎでも行われている。

「阪神なんば線ご利用の方は、2番線停車中の普通電車を通り抜け、3番線の電車にお乗り換えください」

阪神電車に乗って尼崎駅へ帰ってくるとよく耳にするアナウンス。そして乗客はまるで玄関から自分の部屋へと入るかのように、両側の扉が開け放たれた普通電車内を通り抜け、向こう側のホームに停車している電車へと乗り込む。

私たちが自然に行っている阪神尼崎駅での乗り換え。しかし、どこかおかしくはないだろうか?そう、「普通電車を通り抜け」という部分。私鉄王国・関西といえども、電車を乗り換えの「通路」として使う鉄道は非常に珍しい。

「これは『中通し』と言って、尼崎駅では30年以上前から行われています」と教えてくれたのは阪神電車の広報ご担当の山下栄一さん。「階段を昇り降りするのは大変ですし、この方がスムーズですから」というサービス精神。さすがは僕らのソウルトレインだ。

聞けば、「中通し」は甲子園駅でも行われているという。野球観戦のために集まる大勢のファンを安全かつスムーズに捌くため、降車専用の一番南側のホームに停車した電車の両側の扉を開けたままにしておく。そうすることで、真ん中のホームに入線した電車から降りた乗客が降車者用出口へと直行できる。

なんと合理的なのだろう。これを実現するためには、まずは通路役となる電車(普通電車であることが多い)を真ん中のホームに停め、その上で両サイドの電車が順次入線するダイヤを組まなければいけない。「技と呼ぶほどのものでは…」と謙遜する山下さんではあるが、乗客第一の素晴らしいアイデアである。

阪神電車の思いやりはあなたの足元にもある。ホームの高さと車両の床面がぴったり一直線。バリアフリーが当たり前の鉄道業界とはいえ、電車を通路と考えていなければここまでの「ツライチ」感は出せないのではなかろうか。思わずうっとり眺めてしまい、1本乗り過ごしてもすぐに次が来る。なぜならここは、「待たずに乗れる阪神電車」なのだから。


取材と文/大迫力(おおさこちから)
編集者。高校時代は阪神電車で通学。出屋敷から普通電車に乗る、すなわち「ジェットセッター」。