THE 技 踊り子支える太鼓の達人
ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る
盆太鼓の依頼は、 nijigamenijigame@yahoo.co.jpへ。
7月末、夏休み真っ只中の夕方、JR立花駅北側にある福住公園の盆踊り大会を訪ねた。「月が~出た出た~」と炭坑節がかかり、浴衣姿の女性たちや子どもたちが輪になって踊るなか、櫓の上で力強い太鼓を叩いているのが柴野勇さん(50)だ。
盆踊りの太鼓なので「盆太鼓」。小学生から叩いているだけあって音が大きく迫力があり、小さな公園がお祭りの雰囲気でいっぱいに。夕方6時半から約3時間で、およそ30曲を途中交代しながらも汗だくで叩ききった。
実は盆踊りがさかんな尼崎。商店街や町内会などが中心となって、夏の間はほぼ毎晩市内のどこかで櫓が立っている。柴野さんも1年で15カ所ほどの櫓を任されるそうだ。
盆太鼓を始めて40年。両親が働く風呂屋のあった立花東通商店街が新しく盆踊り大会を開催することに。「せっかくやから子どもに叩かせようと、小学生だった僕に声がかかって、仏壇屋の息子と一緒に練習しました」。太鼓が手元になければ自転車のサドルを叩いて練習していたという熱心さ。高校生になると、仲間と一緒に市内の盆踊りを片っ端からめぐり、叩いてまわった。
「とにかくお祭の雰囲気が好き。他の人の叩き方を見に行くだけでも楽しい」と言いながらも、他所の盆踊りへも法被とバチは必ず持参する柴野さん。曲の合間に「1曲叩かせて」と聞いてみる。そんな太鼓打ち同士のコミュニケーションも楽しみなのだとか。
盆太鼓の極意は、踊り子さんの邪魔にならないようテンポを保つこと。しかし、音源が聴こえにくい櫓の上で、曲と太鼓がズレないように叩くのは難しい。「上手な踊り子さんの足を見るんです。リズムをきれいに刻んでいるから」とこっそり裏技を教えてくれた。
今も自身の技を磨き続ける柴野さんだが、これからは子どもたちにも盆踊りの楽しさを伝えたいという。この日も、小学生を交代で櫓に上がらせ、次世代へバトンならぬバチを渡していた。
取材と文/宮崎絵里子(みやざきえりこ)
この取材を機に今年はたくさんの盆踊りをまわりました。来年こそは麦わら音頭を攻略したい。