フード風土 11軒目 うどん屋「典平」
よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
炎暑に燃えよ!うま辛カレーうどん
毎日毎日暑いにもほどがある。こう暑いと夏バテで食欲が減退する…かというと、全く逆で、胃袋がヤケを起こしたように食い物を欲する。特に熱いもの、辛旨いものがいい。「たっぷり汗かいて体調シャキッ」とかいう健康雑誌的ヘルシー志向ではない。「心頭滅却すれば…」の修行精神でもない。ただの酔狂だ。というわけで、カレーうどんである。想像しただけで汗がにじむ。
35度はあるかという炎天酷暑の中、訪ねたのは三和本通商店街をわき道に入ったうどん屋「典平」。開店19年。地元の何人かに推薦された。
「暑いですねえ」。席に着くなり、カウンターの中にいた店主の奥さん、西田賀子さん(55)に声をかける。そして間髪入れず「ほなカレーうどんを」。ついつい勢い込んでしまうのは、「今から暑さに挑むぞ」という宣言だからである。
カレーうどんは、老若男女問わず「売れるメニュー」だそうだ。「一番人気というわけやないんやけど、カウンターで誰かが食べていると、次の客も次の客もというふうに不思議と続くんです」。分かる。匂いだ。うどん屋の献立にあっては異質な、香り高いスパイスにそそられるのだ。
そんな話をしながらも手際よく仕上げられたカレーうどんが盆に載って出てきた。たっぷりとしたカレーだしに浸ったうどんから立ち上る湯気と香り。カボチャの天ぷらも載っている。
箸を割り、一気にすすり上げる。二口、三口。途端に頭皮に汗が浮き出し、刈り込んだ髪の間からダーッと…あれっ? いや、さっぱりしてるなあ。軽い酸味がいい。濃厚な味と辛さを想像していた分、洗練された「大人味」が印象的だ。汁を飲み干すと、思わず声が出た。「ふーっ、もう1杯いけるで」
そこへ、ご主人の西田日出男さん(56)登場。カレーうどん用の粉末ルーやS&Bのカレー粉、近所の市場で仕入れるかつお節や和牛、隠し味に鶏がらスープやコーヒーフレッシュ(冬のみ)を使うことまで、惜しげもなく披露してくれた。「材料や調味料の分量もいろいろ試してね、味を変えてみてるんですわ。作る人によってトロみのつけ方とか少し違うしね」
しかもご主人、1年前禁煙に成功してから舌が鋭敏になったのだという。話を聞くうち、むらむらと食欲がわいてきた。「やっぱりもう1杯!」
ご主人の手によるカレーうどんは、奥さんのよりトロみがあって、やや辛みも強い。「男っぽい感じ」とでもいおうか。半分ほど食べて七味を振る。来た!じわり毛穴が開き、汗が噴き出す。
2杯のカレーうどんに、すっかり満ち足りた気分で額を拭う。あーええ汗かいた。■松本 創
11軒目 典平
神田北通6-174
11:00~19:00
火曜定休