Amagasaki Meets Art その五 喫茶店で出会う

世の中に「アート/芸術」という言葉は溢れているけれど、いったいアートって何なのか?尼崎南部地域で出会ったいろんな「アート」を通して、考えてみる。

珈琲香る、カウンター越しのアートばなし。

珈琲の店 獨木舟(まるきぶね) 御園町9 【休日】日曜・祝日 【営業時間】12時~20時

あなたは、観た映画、読んだ本、行った展覧会、聴いた音楽etc、様々なアート体験を、誰に、どこで、どんな風に話しますか?自分が知らない事に対して、新たに興味を抱くきっかけにはどこで出会いますか?

今回取材に伺ったのは、阪神尼崎駅のすぐ南にある「獨木舟」という喫茶店。賑やかな駅周辺とは打って変わって、静かな印象の店構え。店内のこだわりが貫かれた民芸調のインテリアや、それらが醸し出す雰囲気からは、昭和40年開店という歴史が感じられる。御主人の田中元三さんは、音楽、美術、とりわけ文学に造詣が深く、この「獨木舟」という店名も御主人の愛する詩人・伊東静雄の詩からとったそうだ。

御主人の穏やかな人柄と造詣の深さで、次第に専門家から愛好家まで、様々なアートを愛する人が店に集うようになり、現在では獨木舟文学館と題して文学作品の朗読会、音楽会、展覧会、時にはオペラの上演まで(!)不定期で行われている。筆者が取材に伺った日も、カウンターではお客さんと三島由紀夫の小説話に花が咲いていたり、刷り上がったばかりの著書を抱えて来店した方の姿も見られた。

田中さんは、「自分が専門家ではないという気楽さから、色々なことをお客さんと話す事ができる。自分の専門や興味のある世界に閉じこもっているだけでは、ひとりよがりになってしまうけど、外の人と話す事で、いろいろな事が明確に見えてきたり深まったりするでしょう?」と話す。

自分が体験したアートについて人に話す事は、はじめは結構気を遣うかもしれない。「上手く言葉にしなくちゃ」とか、どこか気負ってしまいがちになることも確か。でも素直に感じた事をポツポツとでも口に出して相手に伝えてみる。そうすると、相手の感想や意見、自分が知らなかった事が聞ける場合があって興味深いし、新たな出会いやつながりも生まれるかもしれない。芸術を静かに育む場所は、こんなところにもあるのかしら。


木坂 葵(きさか あおい)
1978年新潟県生まれ。アートNPO大阪アーツアポリアで、アートコーディネーターとして築港赤レンガ倉庫の現代美術プロジェクトに参加中