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全国初のそろばん特区も杭瀬におまかせ

3年生の授業風景

藤本和彦先生(68)の力強い声が教室に響く。尼崎市立杭瀬小学校でそろばんの授業にお邪魔した。

同校では、今年度から3年生から6年生まで年間50時間、「計算科」の授業が新設された。出屋敷に珠算教室を構え、50年以上の指導歴を持つ藤本先生を中心に、地域の”そろばん名人“が非常勤職員として授業をサポートする。「昭和40年代には600人くらい習いに来てました。習い事ゆうたらそろばんしかなかった時代ですから」と藤本さん。最近は学習塾など習い事も多様化、子どもたちのそろばん離れが進んでいるという。

2004年3月、政府の構造改革特区の申請で、尼崎市は全国初の「計算科」特区に認定。そのモデル校として市場や商店街でにぎわう杭瀬のまちの小学校が選ばれた。テレビや新聞などからはほぼ毎週取材依頼があり、他府県からの視察も絶えない。泉原博美教頭は「はじめは色々と戸惑うこともありましたが、各方面から注目されながら、生徒たちも授業を楽しんでいるようです」と話す。他の教科と違って、そろばんの授業はみんな初めて。頑張れば1番にだってなれる。最も変わったのは、生徒の集中力だと言う。

すっかり慣れた手つきでそろばんを弾く児童

目をつむって頭の中のそろばんをはじく暗算の練習。真剣な顔、苦しそうな顔、なかには、今にも泣きそうになりながら先生の読み上げに集中する生徒もいる。正解が出るとみんな一斉に「ごめいさーん」。教室に漂う緊張感がふっと緩む瞬間だ。

「すぐにでけへんってゆうな。辛抱して最後までよう聞いて頑張れ」と児童を励ます藤本先生。「そろばんを通して、集中力や忍耐力、礼儀作法を身に付けて欲しい。大人になっても大切なことはそれくらいとちゃうかな」。

1学期最後の授業が終わって、先生の元に生徒が駆け寄ってきた。「せんせい、1学期の授業ありがとうございました」―「おっ、夏休みもちゃんと練習しいや」。今後は生徒たちが商店街や市場に出向き、地域での実習も計画中。杭瀬のまちのあちこちでそろばんをはじく音が鳴り響く。■若狭健作

そろばん特区?

尼崎市では、児童の計算力の低下に対応して「計算科」の教育課程導入を申請。地域活性化の一環として進める構造改革特区に、全国初の「そろばん特区」として2004年3月に認定され、注目を集めている。

最初のモデル校に杭瀬小学校が選ばれたのは、あきんどのまち杭瀬のイメージとマッチしたからか?妙に説得力がある…。