つくらないまちづくり 第5回 現代版家守
新たに施設などを作らずに、地域にある資源を上手く活用したまちづくりを毎号紹介。
空室改装でコミュニティ再生
RENプロジェクト
東京神田の中小ビルの空室をリーズナブルに改装しSOHOや店舗へ転用するプロジェクト。空室対策だけでなく、まちの再生も目指す。
東京・神田(かんだ)は江戸時代から続く古い街。通りには昔ながらのお店がまだまだ残っている。それでも、通りを歩いて目に入ってくるのは、空室だらけの古いビル。中小オフィスビルからきれいな大型再開発ビルへテナント流出がとまらないのは尼崎も神田も同じ。オフィス人口は減少、駅前は風俗店と消費者金融の店舗が目立ち、コミュニティも崩壊の危機にさらされている。
江戸時代の神田は長屋が連なる町人街だったが、その長屋を地主の代わりに管理したのが「家守(やもり)」と呼ばれる人たち。長屋の管理から、住民同士の喧嘩の仲裁までも担当した、いわば町のマネージャーだ。その家守が、平成の世の神田に復活している。
2003年に神田の空洞化対策として立ち上がったのが、建築・デザイナーなどが中心となって「REN(連)プロジェクト」。彼らは、オーナーに代わり老朽化した地域の中小ビルの空いた1室を、きれいに改装、個人・小規模事業主向けの小さなしゃれたオフィスへと変える。ブース単位で貸し出すなど賃料を割安に設定することで、若いデザイナー関係や個人起業家といった店子をオーナーにかわって誘致。共用スペースにはラウンジを設け、常駐している家守が郵便物の受取代行もするなど、江戸期の家守さながらの面倒見の良さである。彼らの活躍で、空室だったビルに新しい人が戻ってきている(ちなみにこのプロジェクトの最初の店子はフランス人建築家!!)。
複数のビルに点在するこのような空室を束ね、さながら1つのビルとして運営していくのが、このプロジェクトの特徴。もちろん、町政にまでたずさわった家守同様、アーチストや学生とまちの古くからの住民の交流の橋渡しも行うなど、神田のまちの再生にも積極的に取り組んでいる。
「単なる不動産の管理をしているのではありません。私たちは現代版家守としてコミュニティに“場”を提供し、人と人とのマッチングをしています」(プロジェクトの中心となっている不動産コンサルタント・アフタヌーン・ソサエティの橘さん)。「おもしろいのは、いつのまにか、家守を介さなくても学生とまちの住民がつながってしまったこと。最近では、自ら家守を希望する若い人もでてきています」。古いまちに新しい感性をもった若い人がやってきて、地元にうまく刺激を与えている。尼崎に目を戻すと、家守を待っている”長屋“がたくさんある。
齊藤成人●さいとうなるひと
日本政策投資銀行調査役 専門は地域開発