フード風土 58軒目 好吃(ハオチー)食堂

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。

市場が呼び、育てる台湾食堂

叩けよ、シャッターは開くためにある──。本誌54号で杭瀬中市場の「市場食堂」を訪ねた際、そう書いた。その後も同市場では、空き店舗のシャッターが次々と開き、新たな人の流れができつつある。

台湾の麺とおやつの店「好吃(ハオチー)食堂」がオープンしたのは、昨年11月12日(いい豆腐の日)のこと。オーナーはなんと、本誌編集長の若狭健作氏と、毎号表紙イラストを飾っているコマツサトミ画伯のいい豆腐…じゃない、いい夫婦。台湾好きと市場好きが高じて、現地のカフェ風空間を作ってしまった。

メニューは二つ。蒸し鶏や野菜をたっぷり載せた茹で麺を、特製ゴマだれであえて食べる「涼麺(リャンメン)」。豆腐に茹でたピーナッツと小豆を添え、きび糖のシロップに泳がせる「豆花(トウファ)」。

涼麺650円、豆花500円。それぞれ温・冷あり。新たに滷肉飯(ルーローハン)650円も登場。テイクアウトもできる。定休日には店を貸し出し、カレー屋や居酒屋が営業している。

写真(涼麺・店長):浜田智則

麺も鶏肉も野菜も豆腐も、すべて市場の専門店で仕入れる。「新鮮で品質は抜群。足りなくなればすぐ買いに行ける。いいことづくめです」と市場商売の強みを語る若狭氏。店に立つ店長も市場でスカウトした。

大阪出身の今西奈緒幸さん(23)。昨年夏に尼崎へやってきたテニスボーイ。この店のほか、市場の鮮魚店や惣菜店で日替わりで働きつつ、YouTubeユニットで杭瀬の魅力を発信している。「市場の人たちは温かく、いい意味でマニュアルに縛られない。多様な働き方ができる場所だなと思います」。

カウンターでそんな話を聞きながら涼麺をいただく。もっちりした麺に、蒸し鶏とみずみずしい野菜、香ばしいフライドオニオン。ゴマだれに台湾の辛味みそも加え、まぜ合わせたら豪快にすする。うまい。あっという間にたいらげてしまった。

豆花は台湾の定番スイーツだが、冷やしぜんざいやわらび餅のような和の甘味も思わせる。しっとりした絹ごし豆腐と、ほどよい甘さのシロップが溶け合い、じっくり煮込んだピーナッツが、よいアクセントになる。これは暑い夏の昼下がりか、飲みすぎた夜に食べたい。

と思っていたら、ある週末、市場で調達した刺身や焼き鳥をテーブルに並べて、若狭氏がにぎやかに宴会をしていた。カウンターの中ではサトミ画伯と今西店長が黙々と、しかし楽しそうに落花生の殻をむいている。居心地のよさそうな市場の日常風景が、そこにはあった。

市場は人を呼び、人を育てる。シャッターを開けば、まだまだ可能性が広がっている。■松本創


58軒目 好吃(ハオチー)食堂

杭瀬本町1-19-5
杭瀬中市場内
11:00~16:00
火・水・木休