大先輩のいる店

半世紀以上もお店に立ってきた大先輩たちに、お店をする理由や考えていることを聞いてみた。センパイ、お店って楽しいですか。

リサイクルから物々交換まで。なんでもする店

「お金なくても店はできます」
弥栄(やさか) 昭和町南通9−255 不定休

「リサイクルしよう 物々交換しよう 便利屋仕ごと何んでもします」。所狭しと手書きで書かれた看板には店名がない。何とも言えない物々しい雰囲気の店内から、ニコニコ笑顔で出てきたのは和田寿子さん(73)。初対面にも関わらず開口一番「昆布あげる」と袋を手渡してくれた。

まず店名をたずねた。「このお店は元々飲み屋をやってたんよ。そのときの『弥栄』をそのまんま使ってるんです」と和田さん。聞けば、親が作った借金を返すために21歳の和田さんと18歳の妹でこの店を始めたそう。「安いことが売り。大ビール200円、おでん1つ30円でやってたんよ。大通り沿いで人は多かったね」と、2004年に借金を返し終えるまで商売をした。

リサイクルショップを始めたのは約10年前。友人の引っ越しを手伝った際に、服が入ったゴミ袋37個を処分すると聞き「これもらって店するわ」と古着屋を始めた。「何かしなくちゃと古物商の免許だけ取っといて良かったわ」と和田さん。

商品は100円~500円。仕入れは知り合いから譲り受ける古着がメインだ。持ってきた人には「どれでも好きなもの持って帰って」と物々交換をしているそう。取材中も常連が店に顔を出したり、通りすがりに声を掛けて行く人が多々見られた。「若い女の子にダウンをプレゼントするねん」と言って、店の奥にあったロングコートを500円で買っていく人も。

お店をやってよかったことを聞くと「お金がなくても店ってできるんやと思ったこと」と和田さん。「あってもなくても、あるような顔して生きてるとそう錯覚してくるんよ。幸せ、楽しいと思ってたらそうなるわ」と声を上げて笑う彼女に、人生を生き抜くヒントをもらった。

朝4時開店。武庫川の人気店

「毎朝店を開ける。それだけ。」
武庫川釣具センター 武庫川町4-24 4時~18時30分 無休 06-6416-6147

武庫川駅近くにある武庫川釣具センター。以前にも取材させてもらったので「こんにちは、お久しぶりです」とのぞくと「おたく誰やったかいな。宣伝とか広告とかいらんで」と前回と変わらぬ応対で、店主の桜井さん(74)が迎えてくれた。

朝4時に開店して、釣り餌のシラサエビを「真面目に年中無休」で売り続けてきた。量が多くて安いという評判は、「頼んでもないのにインターネットで勝手にお客さんが宣伝してくれる」おかげで広まり、遠方からも客が店に立ち寄るという。客から持ち込まれた釣果を近所の知り合いに分けたり、中学生の自作の浮きをレジ横に並べて売ったり、店内で繰り広げられる取引が自由すぎて笑えてくる。

桜井さんは2代目店主。学生時代にアルバイトでこの店に来て「そこの娘と結婚して今に至る」という。「おやっさんがええ人で、アルバイトの俺にボーナスで50万円くれた」という昭和40年代はとにかく儲かった。「毎日、武庫川に入ってゴカイ掘ってきて、店に並べたらなんぼでも売れた」時代。震災後にビルを建てた借金もついに今年完済するという。最後に店を続けるコツを聞いてみた。「とにかく毎日変わらずまじめにするだけ」と店のテレビでワイドショーを見ながら教えてくれた。

大正創業、職人のピットイン

「職人さんが来てくれます」
山田道具店 西桜木町8 寺町通り 9時~18時。古物市が開かれる4と9のつく日が休み。

かなづち、のこぎり、のみ、かんな、使い込まれた大工道具や工具が並ぶ軒先は見ているだけで楽しい。閑静な寺町の佇まいとあいまって、ここだけ時間が止まっているようだ。奥で忙しく働く店主に、いつからやっているのか何気なく声をかけてみた。すると手を止めてゆっくりこちらを向き「そうやねえ。うちは大正時代からになりますねえ」と山田栄一さん(85)が丁寧に答えてくれた。山田さんは2代目。父のお店を18歳から手伝ってきた。「夜学に通いながら、昼は大工の見習いを4年間しました。道具の使い方がわかるからって親父に言われてね」。お店には70年近く立っていることになる。

店には骨董品も並ぶ。「大工道具はサラ(新品)が1万円ならフル(中古)はいくらってだいたい決まってるんやけど、こっちは定価がないからね」と眼力が必要な仕事だ。戦前には、今の国道43号線にあった本町商店街の旧家が移転疎開するときに、多くのお宝を仕入れたという。

今の売れ筋を聞いてみた。「電動の釘打ちとかスパナがよう売れますね」。大工や自動車修理工など職人たちが駆け込む店先の風景は、大正13年の創業から今も変わらない。