店継ぐ人 近所のお好み焼き屋継いだ会社員の話
街の灯りを絶やさぬために、お店を継いだ二つの物語。尼崎はこんなバトンタッチが起こる可能性に満ちている。
常連さんがお店を継ぐこともある。下坂部にある「お好み焼き友」。いかにも街場のお好み焼き屋といった外観のお店は、1978年から西山秀子さん(85)が切り盛りしてきた。職人や近所の工場の人が仕事帰りに立ち寄り繁盛したという。しかし数年前から「おばちゃんも年やし、そろそろ店やめるわ」と周囲につぶやき始めた。
次屋で暮らし、会社勤めのかたわら週末には少年野球のコーチをしていた木森寛文さん(57)。練習帰りや家族でお店に通っていた常連客だ。「味も美味しかったけど、みんなで集まれたり、お年寄りが一人でもふらっと来れる店の雰囲気が好きやったんです」という。
なくなったらさみしいな
「会社辞めて継ごうかな」。最初に言い出したのは木森さんの妻だった。「なくなったらさみしいなあ」と夫婦で話すうちに「やっぱり俺がやるわ」と勤めていたNTTを早期退職することに。「このまま10年会社勤めするよりも、家の近所で知り合いが集まる店をしながら生涯現役でいたい」。事務屋からお好み焼き屋へ転身した思いを笑顔で語ってくれた。
お好み修行は1週間
とはいえ、料理はまったくの素人。西山さんのすすめで「若竹学園」というお好み焼き教室に1週間通い、朝から晩までプロの技を仕込まれた。店内を改装して2019年7月にオープンしたが「これまでのお客さんも入りやすいように」と外観は当時のままにこだわった。
ねじり鉢巻きで鉄板に向かい、真剣な表情でコテを操る。できあがった豚モダンは、パリッとした食感のそばとふんわりした生地でボリューム満点だ。取材で訪れた平日のお昼時には、焼酎を飲みながらお好み焼きをつつくマダムや、ベビーカーを押してきた親子連れで店内は満席。
店がつなぐご近所の未来
「サラリーマンの人やから、アタマ硬いやろし商売なんてできるんかなと思ったけど、この人えらい馴染んではんねん」と後継ぎの商売ぶりに西山さんも太鼓判を押す。今も近所に暮らす彼女は、道で人に会うたびに「お店行ったってや」と声かけを欠かさない。
本屋、銭湯、喫茶店。同じ通りにある店はこの数年で次々と閉店している。「同僚や近所の仲間には、店せえへんかって誘いまくってるんですよ」という木森さん。こうしてお店を継ぐことが、ご近所のごきげんな未来につながるのかもしれない。
お好み焼き鉄板焼き友
下坂部2-16-2 TEL:06-6499-1644 11:30~14:00 17:30~22:00(L.O.21:30) 不定休