三和市場 シャッター街の軌跡

尼の台所、三和市場の進化が止まらない。ライブハウス、フィギュアショップ、芝居小屋、そして怪談売買所?一見わけわからん店が次々とオープンしサブカルの巣窟となりつつあるシャッター街の軌跡を追った。

最盛期には約60店が軒を連ねた三和市場。阪神・淡路大震災を境に店舗数は減少し組合員は4店舗に。閉じたシャッターを一つでも開けようと、この10年間イベントや空き店舗対策に力を入れてきた。

市場にライブ空間を

Live space尼崎tora 尼崎市神田南通2-42 不定休
コロナ禍により2020年3月は休業したが、名物のカレーにスタッフおすすめのCDをつけて配達したことがワイドショーで話題に。イベントスペースとしても利用できる。

「ドラムのマイク上げてください」「ベースもっと」。ステージから音響へリクエストが飛び、芯のある音になるや否や演奏になだれ込む。神戸を中心に活動するバンド「湾岸ジプシーズ」が、この日ライブスペース尼崎toraのステージに立っていた。12坪の元青果店を改装し2014年に開店。オーナーの山田哲史さんはミュージシャンでもあり、ドイツで開かれた世界最大のバンドコンテストEMERGENZA2018に日本代表として出場した経験を持つ。「買い揃えた機材置き場を探していたら、ライブハウスになっちゃったんです」と笑う。

お肉屋発、熱狂の世界

出店希望者の窓口役は、三和市場副理事長の森谷寿さんだ。精肉店を営みながら、空き物件の紹介から補助金の相談まで、親身に支える市場の世話焼きおじさんだ。

きっかけは2011年。自身が趣味で集めてきた映画ポスターなどを展示し「怪獣」「若大将」など毎回マニアを唸らせるイベントで、映画や特撮ファンを集めてきた。市場発の怪獣ガサキングαの仕掛け人としても知られる。

toraと同時期に開店したのが「怪獣ショップたんちゃん」。怪獣フィギュアや映画のポスター、グッズがずらりと並ぶ。三和市場が企画した、俳優の大村昆さんのトークショーに合わせて、店主の中西隆次さんが大村作品のポスターのオークションをしたのが出店のきっかけだった。「いい値段になったので、手ごたえを感じましたね」と回想する。

怪談売買所 尼崎市建家町89 イベントスペース「とらのあな」内 毎月第2土曜14時~21時
体験談を話せば100円で買い取ってもらえ、話題がなければ100円で宇津呂さんが怪談を語ってくれる。
怪獣ショップ【たんちゃん】尼崎市建家町89-110時~18時 金~日のみ営業
実は前のページで紹介した「図研」の2号店。映画のパンフレットや古本などの探し物があれば、探し出してくれる。

宇津呂鹿太郎さんは、13年から怪談の体験談を100円で買い取る「怪談売買所」を開いてきた。人前では話しにくかったり、信じてもらえない話題を丁寧に聞き取り、記録し、書籍にまとめている。

趣味や夢を売る市場

狂夏の市場劇場 尼崎市建家町89-5
市場の通路で上演するなど、奇抜な発想でつくる公演にはファン多数。次回作「クズリの目から」(作:武田操美/演出:岩切千穂)は、8月2日(日)~8日(土)に上演。前売り2,500円/当日2,800円

19年には芝居小屋も生まれた。岩切千穂さんが主宰する演劇ユニット「狂夏の市場」が自前の劇場を作ったのだ。劇場以外で上演する芝居を模索する中で出会ったのが三和市場だった。1年間、市場のイベントスペースで毎月新作芝居を上演し、脚本執筆と演出、出演をこなした。

肉や魚や野菜が並んだ三和市場に、この10年で音楽や演劇、怪談や怪獣フィギュアが並ぶようになった。尼崎の台所は、人々の趣味や夢を仕入れて売る、新たな市場として生まれ変わろうとしている。わけわからん店の出店はこれからも続く。