尼崎コレクションvol.30 岩宮武二(いわみやたけじ)≪武庫之荘駅前噴水≫

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

平成から新時代へ 写真家岩宮の仕事

阪急武庫之荘駅南に所在するゴンドラ型噴水を被写体とした本作品は昭和57年制作。

平成元年6月24日、昭和の歌謡界を代表する歌手・美空ひばりが逝去した。「昭和の歌姫」とも称された大スターの逝去に、数多くの人びとが昭和の終わりを実感したものだったが、実はこの2日後の6月26日、尼崎を代表する写真家であり、昭和戦後の写真界を牽引したひとりの写真家が逝去している。岩宮武二である。

岩宮武二は大正9年島根県に生まれ、昭和13年にプロ野球の南海に捕手として入団するも体を壊して退団し、以降、写真の道へと傾倒していく。戦後は結核による療養生活など困難な時期を経て、昭和30年、写真家として独立する。昭和39年に尼崎に移住し、以後、逝去するまで尼崎を拠点に写真家として活躍した。岩宮は日本の伝統的な風土やかたちを撮影した『佐渡』、『日本のかたち』や、仏教文化のルーツをたどり精力的にアジアで撮影を行った『アジアの仏像』、『ボロブドゥール』等の作品集を多数出版し、その業績に対して尼崎市市民芸術賞や兵庫県文化賞、芸術選奨文部大臣賞など数々の栄誉が授与された。また、指導者としても後進の育成に力を注ぎ、昭和41年には大阪芸術大学教授に就任した。加えて、尼崎市展写真部門の審査員としても長く活動するなど、尼崎の写真界の発展にも大きく寄与した。

逝去翌年の平成2年、岩宮の弟子のひとりであり尼崎在住の写真家である有野永霧氏の勧めもあり、尼崎市立中央図書館の開館記念事業として「岩宮武二展」が開催されたが、同展は筆者が担当学芸員として企画した展覧会であった。また、平成13年には尼崎市総合文化センター美術ホールにおいて「郷土作家岩宮武二展-カメラでとらえた美と風土-」が開催され、岩宮の地元尼崎で初めての大規模回顧展となった。

そして、平成の時代が幕を下ろそうとする昨年末、岩宮没後30年を記念した新作品集『美とかたち 岩宮武二の仕事』が出版され、同書発行に合わせて大阪で「岩宮武二一門+ゆかりの作家」展が開催された。

昭和の偉大な写真家・岩宮武二の業績は、平成の時代を経て、新時代にもきっと長く伝えられることだろう。


桃谷和則
尼崎市教育委員会学芸員 尼崎市立文化財収蔵庫のリニューアル工事が始まりました。来年秋に新博物館開館予定です。