3時の働くあなた

ホームホスピス 心音

午前3時を少し回った頃、フロア内にナースコールが鳴り響いた。トイレの介助をしてほしいというコールであった。この入居者は2時間おきに尿意を催すのだという。

かつて日本では、「自宅死」が当たり前だった。統計によると1951年に自宅死が8割、病院死が1割だったものが、76年に逆転。今や病院死が4分の3、自宅死は1割程度しかない。

現在、終末期を病院ではなく在宅でという国の大きな流れがあるものの、在宅でのケアが困難な家庭も多い。そこで、がんや認知症などを抱える人たちが、古民家などで共同生活をしながら、生活の質をできるだけ維持向上しつつ、死を迎える最期まで自分らしく生きるための場として“ホームホスピス”が注目を集めている。

全国ホームホスピス協会によると、2018年6月現在、登録数は全国に39か所。比較的兵庫県に集中し、尼崎には2か所ある。そのうちの一つ、富松町にある心音(ここね)を訪ねた。

ベランダの洗濯物やキッチンの胃ろうカテーテルに生活感があふれる。

開業して3年。マンションのワンフロア、6LDKに最高98歳の入居者をはじめ6名の方々が入居している。全員、自分の意思では動けず、かつ医療ケアが必要な人たち。そのため看護師が24時間、食事から着替え、トイレといった身の回りのお世話や痰の吸引、胃ろう等の医療ケアを行っている。家族の宿泊が可能で、本人が望めば昼間から飲酒もできる。入居の条件は何があっても延命治療を望まないことだけだ。

今夜の当直は島谷三幸さん。心音の経営者で、この道30年の大ベテランだ。病院勤務時代にいろいろな死と向きあうなかで、在宅での終末期医療に携わりたいと12年前に武庫之荘で訪問看護ステーションを立ち上げた。数年前にともに活動する医師からホームホスピス運営の話を持ち掛けられたそうだ。「うち、あほやからとりあえずやってみてん」と島谷さんは言う。

島谷さんによるとこの仕事のやりがいは正解がないこと。この人にとって何かまだできたんじゃないかと考えることだという。

例えば、パン職人だった92歳の入居者にパンを焼いてもらったところ、本当においしくて、みんなが感謝した。するとそれ以来、大丈夫かというくらい元気がでてきて、言動も変わってきた。こうした姿を見て、コミュニティの中で役割を見つけることが人には大切だと確信したそうだ。

島谷さん曰く、「ホームホスピスとは人生の最後をおだやかに過ごしてもらう場所。といいつつ、身体のリズムを維持するため、朝早くからたたき起してるねんけどね(笑)」。

この日のお夜食 「技のこだ割り」

「食べると眠たくなるから」と基本的に夜食は食べない島谷さんだが、カバンにはコンビニで見つけたお気に入りのおやつを忍ばせて合間につまむ。写真は今ハマっているというおかき「技のこだ割り」。


取材・文/立石孝裕(たていしたかひろ)
最近50肩に悩んでいます。どなたかイイ治し方を教えてください。