フード風土 8軒目 和風ファストフード「尼出(あまいで)」
よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
寄り道誘う郷愁の味。出屋敷名物、甘いでぇ
おぐら、しろ、マロン、うぐいす、あんフライ。5種類の味が楽しめる尼出焼き
「スイカは野菜か果物か」と同じぐらい根深い命題に、「お好み焼きはメシかおやつか」がある。前回は完全メシ派のお店を訪ねたわけだが、今回は逆サイド、つまり、おやつ派の側から鋭く切り込んでみたい。
「お好みスティック」。阪神出屋敷駅前リベルにある「尼出」の売れ筋だ。150円。その名の通り、棒状のお好み焼きに竹串が挿してある。いや、竹串にお好み焼きが巻いてあるのか。
「どない作ってるんかとよう聞かれるんですけど、これですわ」。店主の英賀達男さん(69)が指差した先には、ギザギザ模様が刻まれた風変わりな挟み焼きの鉄板が─。
「元々はチーズドッグという食べ物の鉄板らしいです。カタログで見つけた時にピンときましてね。これでお好みを焼いたらいけるんちゃうかと。まあ、アメリカンドッグとお好み焼きを合わせたみたいなもんやね」
一本試してみる。カリっと焼き締められた生地にソース、青ノリをたっぷり。頬張ると、中はホクホク。エビ、イカ、キャベツ、ショウガに香ばしい天かす。ああっ!懐かしい味だ。学校帰りの寄り道の味がする。
そう。手軽なおやつ感覚、そしてこの懐かしさこそ、尼出の味を語るキーワード。
先代が出屋敷に回転焼きの店を構えたのは昭和24年。ふっくらと甘く香る生地であんを包む、あの菓子だ。英賀さんは中学時代から父を手伝い、26歳で2代目に。同時に、「神戸堂の回転焼き」から「尼出」に屋号を変えた。「尼崎の出屋敷」と「甘いでぇ」をかけている。
「ずっとこの出屋敷で商売していくわけやからね、それにふさわしい、ええ名前があるはずやと頭をひねったんです」
素朴な味わいにネーミングの妙。尼出焼きは中高生を中心に、地元の人気を集めた。
「いちばん忙しかったころ?25年ほど前かな。一坪ちょっとの店は学生でいっぱい。外では持ち帰りの奥さんらの行列。1日2000個。顔も上げんと焼き続けたもんですわ」
ハンバーガーだ牛丼だコンビニだと、チェーン店が猛威を振るう前の話。腹を空かせた学生のために、英賀さんは次々と新メニューを取り入れた。その一つがお好みスティック。いまや尼出焼きと並ぶ店の2枚看板だ。「日本中でココだけ!」のうたい文句には、“出屋敷発のおやつ”の誇りが込められている。
駅前再開発に伴いビルの地下に入ったいま、不景気もあって寂しさは否めない。
「でもね、昔食べた味やいうて買いに来てくれる人もいる。大げさかもしれんけど『この道一筋』でやってこられたのは幸せやなあ、と」
尼出焼きの優しい甘さが奥歯にしみた。■松本 創
8軒目 尼出
竹谷町2丁目183-B1F43
水曜休み(月2回)
10:00~21:00
06-6411-4606