つくらないまちづくり 第2回 金森赤レンガ倉庫
新たに施設などを作らずに、地域にある資源を上手く活用したまちづくりを毎号紹介。
金森赤レンガ倉庫
明治42~43年にかけて建てられた趣のある倉庫を活かして、ビアホールやショッピングが楽しめる観光施設に転用されている。日本各地から年間150~200万人が訪れる。
「もったいないので、直して使えないか」
日常生活では当たり前の言葉だが、まちづくりとなると、なかなか登場しないフレーズだ。まちづくりの一環として、観光客を呼ぶための施設をつくろうとなると、地域に少しでも関係のある人物や事象をことさら大きく取り上げた記念館的施設(○○パークとか美術館など)を新設するというのが、依然として主流である。
ところが皮肉なことに、現在、多額のお金をかけ施設を新設するよりも、既に地域に存在する建物を改装して再利用した施設のほうが、多くの観光客を集めている。いわゆるリノベーション建築をまちづくりに応用したやり方である。施設とその地域固有文化、産業の歴史などとの間に連続性が生まれるので、本物感を感じることができるのが人気の理由だ。
有名なのは、レンガ造りの古い倉庫を改装し観光・商業施設に転用した横浜市「横浜赤煉瓦倉庫」、北九州市「門司港レトロ」などで、両者ともレンガの持つレトロ感が観光客にうけている。 レンガ倉庫を集客施設に再利用する手法は古くからあるわけではない。倉庫は産業遺産とは言えるものの、文化財的にはあまり評価は高くなく、耐震性の問題などからよほど重要なもの以外は取り壊されてきた。従って、レンガ倉庫を改装し観光施設に転用しようという試みは1990年代に入りようやく日本各地で取り組まれてきたものだ。
もともとはアメリカでよく行われてきたやり方で、1964年にサンフランシスコ市のチョコレート工場跡地を観光・商業施設「ギラデリスクエア」に転活用したのが最初である。日本で初めてリノベーション手法を観光施設整備に応用したのは、それから20年後、函館市「金森倉庫群」(1988年開業)。今では函館を紹介するガイドブックの最初に登場するようになっている。
新しいものをつくらなくとも、今あるものを再利用しよう、という発想はまちづくりでも立派に通用するやり方で、何も多額のお金をかけて大きな施設をつくる必要は無い。
(注)使わないレンガ倉庫を事務所や店舗に改装した例であれば、日本でも80年代当初より北海道を中心に各地でいくつかみられる。神戸市にもレンガ倉庫を家具屋に転用した「六甲パインモール」が震災前まで存在していた。ただし、観光施設に転用した事例は、函館の金森倉庫が最初であろう。
齊藤成人●さいとうなるひと
日本政策投資銀行調査役 専門は地域開発