Amagasaki Meets Art その二 公園にて出会う

世の中に「アート/芸術」という言葉は溢れているけれど、いったいアートって何なのか?尼崎南部地域で出会ったいろんな「アート」を通して、考えてみる。

ママがたたずむ、その理由は…

AMAMAMA 記念公園内に鎮座する巨大モニュメント

美術作品には「触らない」「近づき過ぎない」が美術館やギャラリーでのジョーシキ。そんなジョーシキが通用しないものがあった。

神戸市在住のアーティスト、榎忠さんの作品「AMAMAMA」。尼崎(アマ)のお母さん(ママ)は、巨大な昆虫の形をした全長25メートルのパブリックアートだ。真っ黒の鉄管で組まれた昆虫の胎内は空洞になっていて、口の部分は滑り台として遊べる立派な遊具なのだ!

鉄の芸術家 榎忠の魅力
1944年香川県生まれ。神戸を拠点に活動する榎忠さんは、原子爆弾や機関銃など武器をテーマにした作品を発表し、現代社会へのメッセージを発信している。

作家の榎さんは「地域やまちと関わりのない作品は作りたくない」と、制作にあたって近所の工場を見学、子供たちと直接話をするなど入念な下調べを重ねた。ただ見るだけではなく、そこで遊んで関わることができる作品AMAMAMAは、尼崎市制70周年に湧く1986年、尼崎記念公園内に完成した。

「子供って冒険が好きでしょ。おっかないものや危ないものに惹かれる。子供の頃にウワ-ッて感じた事は、大人になっても忘れないし、ずっとココロのどこかに残っているはず」と語る。どこにでもあるような分かりやすい遊具よりも、子供が体いっぱい頭いっぱい使って遊びを考えてほしいという願いが込められた。

しかし完成後まもなく、ホームレスや不良が溜り場にして危ないとの理由から、内部が封鎖されてしまう。榎さんは抗議するが、市役所側は「危険な遊具は置かないのが原則」との一点張り。「それならいっそのこと、壊してほしい」と頼めば、「前の市長が残したものだから無理」と、断られる始末。結局、近隣の聞き込み調査と、他の公園遊具との安全性の比較をまとめた報告書を提出し(他の遊具と危険性は変わりがなかった)、照明と看板を設置することで市役所側との合意を取り付け、封鎖が解かれたのは5年後だった。

街に点在する彫刻や記念碑は、無害だが顧みられないものが多い。尼っ子たちが、作品と知らずに自由な発想力を駆使して体いっぱい遊べた方が、この街に存在する意味があるだろう。そんな体験を通して、思い掛けない感覚を抱いたり、いつか新しい視点に気付くことができれば、めっけもん!

アートは、アートの文脈だけで語られるものではないはず。アートを通して世界(大きかろうが小さかろうが)を知ること、社会を見ることはいくらでも可能じゃないかしら?


木坂 葵(きさか あおい)
1978年新潟県生まれ。アートNPO大阪アーツアポリアで、アートコーディネーターとして築港赤レンガ倉庫の現代美術プロジェクトに参加中