僕が闘う理由 尼崎ゆかりの選手たち

兵庫県立西宮香風高校ボクシング部。前身の西宮西高時代、ノンフィクションの舞台にもなったアマ・ボクシングの名門。苛烈な世界で闘い続ける選手たちの中に、尼崎にゆかりの3人がいる。10月半ば。国体へ向けた練習の夜、彼らを訪ねた。そして、3人に同じ質問をぶつけてみた。なぜ闘い続けるのですか。闘い続けるためにいちばん大切なことは何ですか。

あきらめたら終わり

フェザー級のエース、カスティーヨ・パブロさん(17)。2年生。ライト級の兄と2人、「カスティーヨ兄弟」といえば高校ボクシング界ではちょっと知られた名だ。西宮在住だが、両親は尼崎市内でペルー料理店を営む。

ボクシングを始めたのは中3の夏。「兄貴を通じてコーチから声がかかったんです。行ってみたらすごく楽しくて」。実際に入部すると、練習や上下関係の厳しさに戸惑ったこともあった。へとへとに疲れきった後に任される大量の洗濯にも参った。でも、それをこなしてきたという自負もある。

「続けるために大事なこと…。心ですね。技術は練習を積めば上手くなるけど、精神面はね」。練習は「疲れたから終わり」ではなく、そこから先が粘りどころだという。「あきらめたらそこで終わりですから」。今年のインターハイはベスト16だった。来年は優勝を狙う。「その先は…。僕、映画が大好きなんです。俳優になれたらな、と」。端正な顔が一瞬ほころんだ。

自分にとっての挑戦

加治木了太さん(16)。1年生。バンタム級のホープ。父の強い勧めで小3から尼崎ボクシングジムに通った。「最初は嫌々でした。でも、小6で初めてスパーリングした時に自分のパンチがバンと当たった。拳に残ったその感触がなんか良くて…」。今は「ボクシングをするために生まれた」とさえ思う。好きでやっていること。「しんどい、辛い」と思ったことがない。「ボクシングは自分にとっての挑戦。生きる道、かな」。前へ、前へ―。相手を倒しにいくのが自分のスタイルと信じている。「続けていくために、ですか?自己管理。どんなに強くてもケガや病気をしたら終わり。けんかもぐっと堪えるようになりましたしね(笑)」。そして、こう宣言した。「プロになりますから。もう決めてるんです。17歳になったらすぐプロ転向します」

誰にも負けたくない

モスキート級の伸び盛りは、金子一也さん(16)。1年生。中1の時、加治木さんと同じジムに入門。やはり父の影響だった。「ピリピリした空気に最初はなじめなかった」が、初めて試合に勝った瞬間、そんな気持ちは吹き飛んだ。「キツい練習に耐えてきたことが実った。とにかくうれしかったですね」。

45キロまでの最軽量級。が、身長160cmの小さな体に秘めたスピリットは熱い。「負けず嫌いですね。誰にも負けたくない。もし負けたら、勝つまでやりたい」。心に決めたライバルがいる。他校の上級生。彼を倒すのが当面の目標だ。「ボクシングに大切なのは、やっぱり勇気。殴る根性かな。攻める気持ちをどれだけ持ち続けられるか」。夢は「世界一有名になること」。プロへの道も当然、視野にある。


text 松本創 photo 若狭健作