「このまちにとどまって何かしようという若いやつがおらん」映像作家 SOVAT THEATER代表 中田秀人

尼崎の立花町で生まれ育った映像作家が今年4月、故郷に帰ってきた。これまで京都を拠点に活動してきた映像製作ユニット「ソバットシアター」代表の中田秀人さん(31)。武庫之荘にあるマンションの一室をスタジオに、新作「電信柱エレミの恋」を製作中だ。

「自主製作の映画って分かりにくいと敬遠されがちでしょ。俺の作品はエンターテイメントというわけではないけど、楽しませてナンボやと思っています。見た人が誰かにお話として伝えられるものにしたい」

作品はアニメーション。2000年に発表された短編「AUTO MOMMY」は国内海外あわせて9つの賞を受賞した。幼児虐待という重いテーマをブラックユーモアにくるみ、自らデザインした愛らしくも毒のあるキャラクターたちがストーリーを展開していく。

粘土や樹脂で作った人形に生命を吹き込むのは「ストップモーション」と呼ばれる撮影技法。人形を数ミリ動かし一コマ。また数ミリ動かし一コマ。15分の作品を撮るのに2年近くかかる。「しんどいなんて思ったことはないよ。自分のしたいことが好きなだけできるんだから」。

久しぶりに戻った尼崎。「小さい頃の街の思い出ってあんまりないんですよ。映画のチラシを見てストーリーを想像したり、落語のテープを聞いてその世界を思い描いたり、空想の中で遊んでましたね。それと絵ばっかり描いていた」というが、「時々遊びに行った武庫川の風景が今もあまり変わっていないのでホッとする」とも。

「製作する環境があれば世界中どこでも行く」という中田さんの目は、今の尼崎にちょっと厳しい。「若いヤツがここに留まって何か新しいことをしようとしない。クリエイティブだったり新しいものを発表する場所がないし、それを受け入れるだけの環境も整ってない」。先鋭的な映像作家が尼崎を描くとしたら、どんな街になるのだろうか。

ソバットシアター

中田秀人の強いこだわりを表現するプロジェクトチーム。モデルアニメーションをはじめ、立体造形などジャンルの枠にとらわれない活動を展開する。 ホームページ