フード風土 7軒目 お好み焼き「みっちゃん」

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。

夏の宵。尼崎に似合うもの。ソースと鉄板、タイガース。

気さくで細やか。根っからの商売人といった感じの美智子さん

尼崎は「ソースと鉄板のある街」だ。5つの地ソースがあって、鉄工所が「マイ鉄板」を作ってくれて─。勤め帰り小腹が空いたら、なじみの店へ寄っていこう。右手にコテ、左手に生ビール。話題はもちろん、Vロード一直線のタイガース。「ホンマ今岡は成長した」「いやいやムーアの打撃も」。不景気も何もしばし忘れて、ご機嫌なアフター5の一丁上がりだ。

阪神尼崎駅近くの「みっちゃん」でも夜な夜なそんな光景が繰り広げられる。鉄板敷きのカウンターの向こう、気風のいい名物おかみ、みっちゃんこと中村美智子さん(61)や夫の義彦さん(60)らが次々と注文をこなす。「不景気やわ。阪神優勝したらようなるんかいな」と、明るくボヤきながら。

美智子さんはお母さんと18年間、西淀川区の千船でお好み焼き屋をやっていた。その後、スナック経営を経て20年前お好み焼き界にカムバックした大ベテラン。近所の商店街のおっちゃんたちは「アマでここの味を知らんのはモグリ」という。が、それだけじゃない。ビジネスホテルに広告を出すや、出張サラリーマンの心をわしづかみ。札幌、博多に東京と、全国にリピーターを増やしているという。地元に根を張りながら人気は全国区。このあたりタイガースと重なる。

ソースはブレンド。「混ぜる割合?それは秘密や」

まずは「ピリ辛すじこん炒め」 (500円)からいってみようか。すじ肉に絡むヤンニンジャンの辛味。胃袋のエンジンがかかればちょっと贅沢に「特製海ぼうず焼き」(1500円)はどうだ。タコ、イカ、エビに貝柱。熱々の生地にたっぷり塗ったジューシーなソースは、大阪の「三晃」と神戸の「オリバー」のブレンド。細かくちぎったノリをどっさり、山芋でつなぎもばっちり。と思ったらこれ、モチが入ってるやないですか。うれしい驚き。「ええやろ。私が考えてん」。采配ずばりで監督ニヤリ、である。

ねぎ焼き(1000円)はあっさりしょうゆでいきたい。噛むほどに味が出るすじ肉と青ねぎの組み合わせはトラの下位打線、矢野と藤本みたいだ。派手さはなくても欠かせぬ存在。ラーメンもある。中華の店をやっていた息子さんが腕をふるう本格派の味はメジャー帰りの職人、伊良部といったところか。

実は去年、開幕ダッシュに乗ってトラメニューが登場した。ケチャップで縦じまを描き、カツをひと切れ載せた「タイガース勝オムそば」。ドリンク付き750円は安すぎて採算が合わず消えてしまったが、棚の奥にまだメニューが残っていた。「阪神優勝の日には復活させましょか」。勢いづくトラキチの提案にみっちゃんは苦笑いで応えた。■松本 創


7軒目 みっちゃん

昭和南通4-62
17:00~深夜2:00 日曜定休
06-6418-8563