南部百景 第10景 食べられる夏の景
阪神出屋敷から尼崎の間を歩いた。さすがに木造長屋の連なるまちらしく、この時期は軒先の緑が映える。路地裏の緑というと、世話と観賞を楽しむものと思いがちだが、ここではキュウリ、ナス、トマトなど、実益を伴なった夏野菜が特に目を引く。だが、さすが!と思うものを見つけた。民家の横にある、幅1メートルくらいの土地に植えられたブドウの木。植える前から、持ち主は大事に育てようと決めていたのだろう、ブロックを積んだ花壇と、枝が張れるように物干しと竹で作った棚がある。ただ、予想より大きくなったのか、支柱は斜めに傾き、水平に渡した部材はもう参ったと言わんばかりにくの字に曲がっているが…。肝心の実のほうは、まだちょっと小さいが、確実に育ったらすごいだろうと想像できる大きさ。今年の成りは違う!とか、去年はいまいちだったとか、ここを通る馴染みさんの間では話題の絶えない木にちがいない。■綱本武雄