力道山に、国技館… アマと相撲のフシギな関係

尼崎相撲ものがたり 鉄のまちの知られざる昭和
井上眞理子 著 神戸新聞総合出版センター 1300円

「えっ、尼崎と相撲?」と言われるかもしれませんが、尼崎と相撲には不思議な縁があるのです。尼崎に「琴の浦」という名物力士がいたのは、明治ころの話ですが、近代になって、相撲をめぐる三つの物語が生まれました。

昭和のはじめ尼崎の人々を驚かせたのは振って沸いたような国技館建設騒動でした。建設予定地の北難波で地鎮祭や基礎工事まで進んでいたのですが…。それは近代化にまい進する尼崎のまちが生んだつかのまの幻でした。

戦時中、軍需産業の拠点となっていた尼崎の工業地帯に、両国から力士たちがやってきます。軍需工場で働きながら部屋を維持するためでした。そのなかに力道山もいたとは驚きです。きつきつの国民服に身を包み、尼崎まで流れついた彼らの運命は…?

最後の話は、尼崎が鉄のまちと呼ばれ繁栄した昭和三十年代、相撲王国を築いた大谷重工専務大谷竹次郎、その人を追います。大谷重工の栄光と衰退は、ひたすら産業優先に突っ走ってきた尼崎の姿そのものでもあったのです。

相撲と尼崎の縁を追ううち、なつかしい「尼崎」が甦ってくるのです。■井上眞理子