Amagasaki Meets Art その一 アパートにて出会う

世の中に「アート/芸術」という言葉は溢れているけれど、いったいアートって何なのか?尼崎南部地域で出会ったいろんな「アート」を通して、考えてみる。

CURIO
立花は安達さんの育ったまち。「ゆっくりとものづくりできるこの環境が好き」

アートって、美術館や劇場、音楽ホールの中だけにあるものかしら?

そんな疑問を解く鍵を、JR立花駅近くの「芸術家の巣」と呼ばれる松浦アパートで見つけた。地中海の風が似合いそうな素敵な白いアパートには、25年程前からものづくりをする人が集まりはじめ、現在は彫金アトリエ、写真教室、ウール(羊毛)作家のアトリエ、手作り鞄屋、雑貨屋が入っている。

彫金のアトリエ兼教室「CURIO」を構える安達さんが生み出すシルバーアクセサリーは、シンプルだけど存在感のあるデザインが多い。「ものが機械で簡単に作ることができてしまう時代だけど、日本の伝統的な技術やものづくり精神を受けついで、職人の技を持ったデザイナーになりたい」と安達さんは言う。

セピア
生徒とネガをチェック中。セピアでは撮った写真をアパートの壁に投影する発表会が毎年10月に行われている

白黒写真の撮影から現像までの手ほどきをする写真教室「セピア」主宰の関川さんは、「白い印画紙というゼロの空間から画像が浮かび上がってくる、その瞬間が何ものにも変えがたい。現像作業から自分でするというのは、ものを作った実感が湧いてくる。自分の意志でコントロールできることが、ものづくりの基本。」と写真の魅力を語る。がしかし、自らについては「アーティストでもないし、職人でもない。もっと普通の人」という。

一枚の板に丹念に手を加えることによって、シルバーアクセサリーとなる。制作過程では、自分のセンスや思考がはたらき、その人にしか産み出せないものが出来上がる。普段「商品」と言う目で見られることが多いものでも、それは同じ。

写真だって、現像作業はもちろん、目にする風景を切りとるという時点で自分の感性が働いている。

ものを作り上げていく過程で、試行錯誤し、五感から第六感、色んな感覚を駆使して人間が生み出すものは、何だってアートって呼べるんじゃないかしら。

立花のガウディ
松浦アパートの魅力

JR立花駅から線路ぞいに東に徒歩12分。築40年のアパートは、DIY魂あふれる大家さんの作品。あくまでもアパートですので、無断の立ち入りはお控えください。


木坂 葵(きさか あおい)
1978年新潟県生まれ。アートNPO大阪アーツアポリアで、アートコーディネーターとして築港赤レンガ倉庫の現代美術プロジェクトに参加中