THE 技 井戸掘りはスポーツだ!
最先端技術、職人技、妙技、必殺技…アマで繰り出すプロのワザに迫る
「今度、畑で井戸掘りをするんやけど、これもスポーツやと思う」。編集会議での唐突な発言。いや、何それ? 私は機械設計が本業のためか、てっきり機械を使うものだと思い込んでいた…。まさか人力で掘るわけないよね。そう思っていた。
弥生ヶ丘墓園近くにある「コミュニティファーム尼崎善法寺」を訪れると、畑の一角で泥まみれになりながら長い棒をぐるぐると回している大人たちがいた。
すでに地面には直径50センチほどの穴。深さは5メートルに届こうとしている。1カ月前に人の力だけで掘ったとのこと。これは面白そうな雰囲気である。
井戸掘りは通称「カゴ」と呼ばれる専用の道具を使う。直径15センチ、長さ30センチほどのパイプにドリル状の刃がついた道具で掘っていく。穴が深くなると、90センチほどのパイプを継ぎ足していく。
パイプが5本、6本と連結された姿はなかなか壮観である。こんな長いものが本当に地面の下に入るのかと不思議に思ってしまう。
「カゴ」の中が掘れた土で一杯になると引き上げて土を取り除く。そしてまた穴に戻して掘っていく。大勢の人の手でこれを延々と繰り返す。一回に掘れる量は10センチほど。かなり地道な作業である。まれに大きな石や硬い層に当たると進まなくなってしまう。
7メートルほど掘ったところで、土の質が粘土から小石混じりの土に変わった。こうなるとゴールが近い。今度は水を吸い上げるパイプをハンマードリルを使って打ち込む。
ところが、2メートルほど打ち込んだところで悲鳴に近い声が上がった。作業の途中でパイプが折れてしまったのだ。折れた箇所は地面から深すぎて、引き上げは不可能だった。
以前読んだ本に書いてあったが、魅力的なスポーツやゲームには必ず「ギャンブル性」と「競技性」の2点が含まれているらしい。
井戸掘りについて考えてみると、まず掘る場所を決めること自体がギャンブルである。水が出るか、出ないかは掘ってみなければわからない。厄介なことに深すぎても浅すぎても水は出ない。
そして、どうやって掘るか。どんな道具を使うか。もしかしたら途中で硬い層にぶつかり、掘り進めなくなる可能性もある。しかし今回のようなトラブルが起こっても知識と体力とテクニックを駆使して乗り越えていく。
井戸掘りは確かにスポーツだった。
取材・文/北村博志
メカ設計者。通勤を徒歩に切り替えてもうすぐ3ヶ月。次回の健康診断が楽しみ。