きみはタッチなんて知らない

スポーツ漫画の金字塔『タッチ』の主人公・達也は野球部で、南は新体操部だった。あれから40年…女子野球チームと男子新体操部を訪ねた。

尼崎BlueRose 好きな野球は楽しくやろう

尼崎唯一の軟式女子野球チームの名は「尼崎BlueRose」。現在メンバーは7名で、最年少の小学2年生から高校1年生まで年齢差はあるが、おしゃべりや笑顔が絶えない和気あいあいな雰囲気だ。

監督を務めるのは、岩崎邦雄さん。野球経験は少ないが、娘達が通う学童クラブの野球チームで指導や子ども達との触れ合いを学び、その後、女子野球に携わり始め11年、今や日本スポーツ協会公認指導者の資格を保持する。

5年前、知人に頼まれ引き継いだ。岩崎さんはコーチ2名とともに、毎週土日の練習日に欠かさず参加する。「親御さんには悪いから“娘”とまでは言えないけど、姪っ子ぐらいには思っている」と、根っからの子ども好きなのだ。

「諦めたらあかん、走れ走れ~」という声掛けにも、子どもを萎縮させるような厳しさはない。「女の子は、“やれ”だけでは素直に聞かんのです。いつも楽しんでもらえるような練習を心掛けてます」と岩崎さん。毎週土日3時間ずつという練習量に驚いていると、少年野球チームはだいたい朝から日没までというのが普通だとか。

今春、少年野球チームを離れ、BlueRoseに移って来た小学6年生の有祐さん。父親に聞けば「友だちの男子に誘われて始めた野球だったんですが、厳しく怒られることが増え、本人が楽しくなくなってきてこちらのチームに移ってきました」という。再び笑顔で野球をする有祐さんを傍で見ながら安堵の表情を見せる。

「ホントは毎週でも試合をしたい。やっぱり試合でしか学べないことも多いですから」と、岩崎さん。現在の7名では試合ができない。でも、監督の人柄を慕って、卒団生が練習試合や後輩の指導に里帰りすることも多いという。

女子野球の世界

女子チーム同士の野球を女子野球と呼ぶ。県下には神戸や西宮を拠点に活動するクラブチームも。2021年、阪神タイガースが女子クラブチームを発足させ、全国的にも女子野球に注目が集まっている。


取材と文 香山明子

尼崎西高男子新体操部 力強く美しい技を求めて

体育館に敷かれたマットの上を男子たちが跳び回る。前転、側転、宙返り…タンブリングと呼ばれるアクロバティックな技を見せる彼らは、尼崎西高校男子新体操部。廃部寸前の体操部を引き継いだ教員の大江誠さんが顧問となり、2013年に創立した部活だ。

自身も新体操経験のある大江さんが、顔写真つきの新入生名簿を見ながらスカウトしてはじまったクラブは、4年後にインターハイ出場を果たした。

全国でその競技人口は2000人ほどなので、待っていても入部希望者はやってこない。そこで大江さんは、地元の小学生が通えるジュニア教室まで開いている。

「楽しいだけじゃなくて根性がついたと思います。日常生活でもあきらめないようになりました」とまっすぐな姿勢で新体操の魅力を語ってくれた高校3年生の田中伸孝さんも、お隣の成文小学校からこの体育館に通っていた。西高生の演技会を見て「自分もやってみたい」と同校に入学し入部した生え抜き選手だ。

共に指導する城市拓人さんも、かつて大江さんの前任校でのジュニア教室で学んだ教え子で、大学を卒業した今も競技を続けながら後進の指導にあたる。大江さんを慕い、子どもから社会人までがともに技を磨く体育館。ここからシルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーとして世界に羽ばたいた選手もいるのだとか。

しかし現在部員は3人。何とか部員を増やして団体演技で再び全国に挑戦してもらいたい。あ、そうだ、タッチの話だ。いや、もうそんな質問も時代遅れな気がするほど、彼らの演技は力強く、私たち大人の目までも(反射で)輝かせてくれる眩い青春がそこにはあった。

男子新体操の世界

音楽に合わせて6人で息をあわせる団体演技と個人演技で競う男子新体操は、女子では禁止されているタンブリングが見せ場に。もちろん、女子と同じようにリングやロープなどの手具を使った技術も競う。


取材と文 山添杏子