尼崎コレクションvol.36《東京オリンピック聖火リレー資料(とうきょうおりんぴっくせいかりれーしりょう)》

尼崎市立歴史博物館所蔵の逸品を専門家が徹底解説。この街の貴重なお宝が歴史を物語る。

聖火リレーはふたたび幻に

右下のスタッフパスの右下にウクライナ国旗が描かれていますが、これは、尼崎がウクライナ水泳チームのホームタウンになっていたからです。

2020年(令和2)夏に2回目となる東京オリンピックが開催される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大のため1年間延期され、2021年(令和3)7月23日から8月8日まで開催されたことは記憶に新しいです。オリンピックに欠かせないのが聖火リレーですが、聖火リレーも1年延期となり2021年3月25日に福島県をスタートし全国を回ることになりました。

兵庫県は5月23日、24日の2日間開催となり、尼崎市は5月24日15時49分に尼崎市記念公園陸上競技場を聖火ランナーがスタートし、産業道路を南下して、16時20分に尼崎城址公園に到着するというルートで聖火リレーが予定され、綿密な調整と準備が行われました。当日は、尼崎市職員である筆者も沿道監視に動員されることになっていました。ところが、4月25日から5月11日までを期間とする3回目の緊急事態宣言が発出され、5月7日には終期を5月31日まで延長することが決定しました。

このため、兵庫県は公道での聖火リレー中止を決定し、姫路市と丹波篠山市で代替行事を開催することにしました。これにより尼崎での聖火リレーは幻となってしまいました。しかし、ポスター、チラシ等の広報物や、当日必要な関係者パスや応援用の小旗など、聖火リレーに関する物品は既に製作済みでしたので、歴史博物館ではこれらの資料を将来の歴史資料として、尼崎市教育委員会スポーツ推進課から寄贈していただきました。現在、歴史博物館2階の現代史の常設展示室にその一部を展示しています。

なお、1964年(昭和39)の東京オリンピックの際は、9月25日に尼崎市内で聖火リレーを行う予定でしたが、台風が前日に九州に上陸した影響で中止となり、聖火は尼崎市内を自動車で移動しました。このように、尼崎での夏季オリンピック聖火リレーは2回とも中止となりましたが、もし、3回目があったならば「3度目の正直」となるのでしょうか。


桃谷和則
尼崎市立歴史博物館学芸員。歴史博物館では、9月3日まで「企画展 歴史博物館ができるまで」を開催中です。