尼崎コレクションvol.05《東園田のイイダコ壺》

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

シカが描かれたイイダコ壺

[作品のみどころ] 2000年前に描かれたシカの絵、弥生人からのメッセージを私たちは読み取ることができるか。

平成15年に発掘調査を行った東園田遺跡からは、519個のイイダコ壺がまとまって出土しましたが、その中の1個に絵が描かれていました。

この土器が作られた時代は、今から約2000年前の弥生時代中期後半と考えられます。これまで弥生時代中期後半から後期前半には、奈良県を中心に九州から関東にかけての広い地域で絵が描かれた土器がみつかっています。しかし、絵が描かれたイイダコ壺の発見は初めてです。

このイイダコ壺は、口径3.4×4.4cmの楕円形、高さ8.7cm、重さ136g、コップのような形をし、側面に脚を突っ張り、伸びをするような姿のシカが描かれています。この絵は土器を作るとき、粘土が乾かないうちにヘラで描いたもので、頭と足は線、首から胴と尾にかけては輪郭線で描き、胴にはシカ特有の斑点が刻まれています。斑点と輪郭線で尾を表現したシカの絵はこれまでにない手法で、写実的な描写がこの絵の特徴です。

漁具であるイイダコ壺になぜシカを描いたのでしょう。シカは古代から神聖な動物と考えられていたようで、「播磨国風土記」などでは豊かな恵みをもたらす動物として扱われています。また、当時の人びとが漁に出た際、海を泳ぐシカにたびたび遭遇したことが想像され、シカが渡る浅瀬は「鹿の瀬」と呼ばれ、今も産卵場所として多くの魚が集まって来るそうです。このほかにもシカを描いた理由があるように思います。弥生人はどのようなメッセージを伝えようとしたのでしょう?

実物をぜひご覧ください
文化財収蔵庫

尼崎市の文化財収蔵庫は展示スペースが充実しました。紹介したイイダコ壺をはじめ、弥生時代の出土遺物や、尼崎城と城下町に関する資料、工都を感じる大型産業機械、ちょっと懐かしい昭和30年代の生活道具など。開館は月曜日から金曜日の9時から17時30分。

入館無料・予約不要●南城内10-2 TEL:06-6489-9801


益田 日吉(ますだ ひよし)
尼崎市教育委員会学芸員 尼崎生まれ尼崎育ちの生粋の「尼っ子」。尼崎大好き人間です。