マチノモノサシ no.12 尼崎の地球温暖化対策

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

CO2削減目標まであと1%

すっかり定着したクールビズから話題のエコカー減税まで、地球温暖化対策の掛け声がにぎやかだ。京都議定書で定められた日本の温室効果ガス削減目標を掲げる「チーム・マイナス6%」なんていう運動もある。残念ながら成果は上がっていないようだが…。では、この地球規模の問題を足元から眺めてみればどうだろう。

尼崎市が、温室効果ガスの代表であるCO2(二酸化炭素)の削減目標を定めたのは一昨年3月。「2010年までに、1990年比で15%削減する」と、国よりもかなり踏み込んだ高い数値を掲げた。これには理由がある。計画策定前年の06年時点で、既に14%の削減を達成していたのだ。ということは目標達成まであと1%? これってすごいのでは…? と思ったが、話はそう単純ではないらしい。

「市内のCO2の半分以上が工場などの事業所から排出されていますが、90年以降は工場の市外転出や事業転換が進みました。工場が減ったからCO2も減ったということです」と市環境政策課。

政策や企業努力の成果ではなく、街の産業の停滞や景気悪化に伴う結果らしい。02年には90年比24%減という“驚異的”な数字もマークしているが、手放しで喜べることではなかったのだ。市内の景気が回復に向かった06年からは企業誘致が成功し、大規模な工場が再び進出してきた。つまり目標達成へ向けて真価が問われるのは、むしろこれからということだ。

各企業はさまざまな取り組みを進める。排出量の少ないLNG(液化天然ガス)への転換や周辺の緑化、また、社会的責任として環境報告書を作成するところも出てきた。

CO2発生を抑制し、発電所のエネルギー効率を高める特殊鋼管を生産する住友金属工業。前田祥吾総務部長は「世界的な競争力を保つためにもCO2削減は重要です」と話す。鉄鋼業界で取り決められた削減目標を達成できない企業は、不足分の排出権を自主的に買う行動目標を定めている。その分が製造コストに上乗せされるから、市場での競争に影響するというのだ。

街なかでは大規模な緑化も動き始めた。

キリン尼崎工場跡地を含む緑遊新都心事業では、8.7haのA地区だけで1.1haが緑で覆われる。市内最大級の商業施設となる「COCOE」では屋上緑化に加え、非常階段の省電力化、トイレへの地下水利用など、エコな工夫がさまざま盛り込まれる予定だ。

では、私たち一市民のレベルでできることはあるのだろうか。

実は、より深刻なのは家庭からのCO2排出量の方だ。市内では90年から06年までの間に25%も増えた。全排出量に占める割合はいまや2割に迫る勢いだ。市は「1人1日1kgのCO2削減」(現在の平均排出量は1日5kg)を目標に、例えば、冷暖房の一時間短縮▽白熱球を電球型蛍光ランプに変える▽シャワーの1分間短縮▽移動はバスや自転車で…などの具体的取り組みを呼び掛ける。電気やガスの使用量に一定の係数を掛けて排出量を算出する「CO2ものさし」で、削減効果を検証することもできるという。

抽象的な数字が踊り、実態や対策の成果がつかみにくい環境問題は、身近なことだと実感しにくい。けれども、大気汚染に苦しみ、目に見えない有害物質と闘ってきた尼崎市民だからこそ、できることはあるんじゃないだろうか。 ■尼崎南部再生研究室

市内のCO2排出量と産業活動の推移 事業所が減ればCO2は削減するが…

「工業統計調査」「尼崎市地球温暖化対策推進協議会資料」より作成