復活! 尼の伝統野菜

かつての農業王国尼崎には、伝説の地場野菜があった。これらを現代に復活させるプロジェクトが市内各地で立ち上がった。さあ、今こそ祝おう、ビバ!地場野菜。

尼いも

尼いもクラブ 尼いもを、作って食べて語って学ぶ会。大物町にあるセンター赤とんぼでは、屋上でも栽培。その出来ばえは満面の笑みが物語る。

尼いもとは、尼崎産の早生のサツマイモのこと。臨海部の塩分を含んだ砂地の畑で育つため独特の風味があり、大阪や京都では高値で取引された。1905年には旧尼崎町だけで耕地面積200ha以上の規模を誇ったが、34年と50年の台風の打撃を受け絶滅。畑は工場地帯へと姿を変えた。

れきはく体験広場では、博愛幼稚園の園児が植え付ける。
収穫したイモを味わってもらおうと三和本通商店街で販売。

96年に尼崎公害患者・家族の会が発行したイラストマップ『尼崎南部再生プラン』。構想を練る過程で患者から寄せられたのが「尼いもをもう一度食べたい」という声だった。01年には復活に取り組む「尼いもクラブ」が発足。一度途絶えた苗探しに、故・横山澄男さんが奔走した。1000種以上のサツマイモを保存栽培する国の研究機関から5種の苗を譲り受け、稲葉元町の林憲男・正子夫妻の畑に植え付けた。4年の試験栽培を経て、03年「四十日藷」を尼いもの一種として特定。クラブは復活宣言を行った。

そして現在。患者たちは思い出話に花を咲かせながらプランター栽培に取り組む。市立文化財収蔵庫の学芸員、桃谷和則さんは毎年市内の学校や幼稚園に苗を配り、子どもたちにレクチャーを行っている。市農政課では、焼酎づくりを目指して休耕地の活用も始まった。多くの人の手で、尼いもは地域に再び根を下ろしつつある。

レシピ集「尼いもクッキング」
世界のサツマイモ料理を研究する「芋っ娘倶楽部」で調理した料理を、栄養学の専門家である片寄眞木子さんがまとめた。1,000円。●尼いもクラブ 06-6438-1852
尼いも焼酎「尼の雫」
尼崎酒販協同組合と生産者らが商品開発した焼酎は、香り高く濃厚な味わい。今年は4,000本を限定出荷した。720ml 1,500円

田能の里芋

田能地区の特産品だったが、いつしか自家用に細々と作られる「知る人ぞ知る」存在になっていた里芋。それを猪名川流域に残る自然環境のシンボルとして、市民グループ「自然と文化の森協会」が注目。農作業体験講座に活用しはじめた。育てるのは、毎年公募で集まったメンバー。園田競馬場で出た馬糞を肥料に使い、粘土質の畑で育った里芋は強い粘りとうまみがあり、ほのかに土の香りも。11月の収穫祭で振舞われる「のっぺい汁」も絶品だ。●自然と文化の森協会 06-6492-2865

富松一寸豆

大粒で甘みの強い風味から、皇室に献上されたこともある由緒正しき一寸豆。戦後廃れてしまっていたが、地域で守り伝えようと平成9年に「富松豆保存研究会」が発足。畑の養分を大量に消費するため、連作できないのが難点だが、メンバーの休耕田を巧みに使い分けて乗り越えている。会長の善見さんによると「ようやく地域に馴染んできた」。小学校での栽培を通して裾野も広がり、毎年5月の収穫祭の参加者は年々増えているそう。●富松豆保存研究会 06-6421-5830


ここで紹介している野菜は収穫量に限りがあるため、店舗には流通していません。興味をお持ちの方は、各団体のイベントにお越しいただくか、直接お問い合わせください。