フード風土 29軒目 新ちゃん

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

熟練の極み、「尼の餃子師」

餃子1人前7個で250円(持ち帰りも)。特製ダレとからしで。水餃子は同じ値段で8個入り。「破れるかもしれんから1個多く入れてるねん」と。こちらも絶品。

餃子はしばしば街を背負う。宇都宮は駅前に餃子像が建つほどだ、いや消費量なら浜松も負けてない、味噌ダレの神戸も忘れるな…云々。だが実は、日本餃子史における最重要都市は尼崎なのでは?という話を聞いた。「日本で初めて焼き餃子を供した店があった」という。証言者はかつてその店で修業した川井田新一さん(74)。寺町の外れで中華料理店「新ちゃん」を営み、今年で45年になる。

「昭和24年や、杭瀬に中国の人が開いた『萬来軒』いう店があってな。中国風に水餃子を出してたんやけど、どうも日本人の口に合わん。どないしたら旨いやろと料理人が皆で相談しながら焼き方を編み出したんですわ」

川井田さんは当時、店で最年少の15歳。「金の卵」として勤めた神戸の製鉄所を辞し、料理人に転身したばかりだった。それから60年。少年は「尼の餃子師」とも称すべき名人になった。

「あの店のやり方を受け継いでるのはうちだけ。ふつうと逆やねん。焼く・蒸すの順番がな」。古びた朱塗りのカウンターの向こう、名人の仕事が始まる。

熱した鉄鍋に餃子を並べ、まずは湯を注いでフタをする。数分後に湯を切り、今度は熱いラードをたっぷり。再びフタ。脂が盛んに跳ねる音、漂う香ばしさ。食の欲望直撃の二重奏。皿に盛れば、こんがり色づいた底面とみずみずしく光る表面の美しいコントラスト。そして頬張った刹那の感激。カリっと焼き締まった皮の中からホクホクの具があふれ、野菜の甘みと肉の旨みは絶妙に調和し、ふんだんなニンニクの風味が広がる。いや旨い。ひたすら旨い。それしか言葉が見つからない。

奥で次々と注文の電話が鳴っている。生で持ち帰る常連さんが多いらしい。「家でも美味しくできる焼き方が、また別にあるんや。何十人前買って行く人もおるで」。毎朝3時から仕込んでいるが、早々に売り切れ、昼飯時真っ只中にのれんをしまう日もある。

何の変哲もない路傍の赤のれん。その奥に潜む熟練の技。「日本初」かどうかなど、この際どちらでもいい。1皿250円の至宝が、たしかに尼崎にある。


29軒目 新ちゃん

東桜木町96
11:30~餃子売り切れまで
月休
TEL:06-6411-5975
できれば電話確認を