マチノモノサシ no.7 製造品出荷額1兆5000億円
尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。
尼崎市に「産業革命」が起きている。
松下電器産業が臨海部に、プラズマ・ディスプレー・パネル(PDP)の世界最大級の生産拠点を整備しているためだ。
関西電力の発電所跡地で松下の最初の工場が稼働したのは2005年秋。隣接地で第2工場も07年夏に動き始め、いま、2800億円を投じて第3工場を建設している。
3つの工場がフル生産する09年以降、年産能力は約2000万台(42型換算)に達する。尼崎はプラズマの世界需要の6割を生産する「世界の工場」となる。
松下効果は一体、いくらになるのだろう。最も新しいデータが、06年の尼崎市の製造品出荷額だ。これが1兆5700億円。前年比18.9%の伸びだ。兵庫県全体では14兆4500億円で前年比7.3%の増。尼崎の伸びの大きさが、際立っている。
もちろん、すべてが松下の寄与というわけではないが、相当な規模で押し上げているのは間違いないと見ていいだろう。
薄型テレビ関連は直接投資規模が大きいだけでなく、波及効果も大きい。鉄鋼や化学、機械などの重厚長大型から、先端型のデジタル家電へ、産業の構造転換が進むのは確実、と期待する向きは多い。
推計では、松下の3つの工場がフル稼働すれば尼崎市の製造品出荷額はほぼ倍増するという。
つまり、09年以降は3兆円になるという試算だ。これはすごい。神戸市の06年実績は2兆6000億円。これを上回ることになるのだ。神戸には神戸製鋼所、川崎重工業、三菱重工業、三菱電機など、なだたる工場がそろう。それを超えるというのは、まさに松下効果といっていいだろう。
かつて、尼崎市では明治初期に紡績業が進出したことをきっかけに、それまで尼イモなどの農地だった臨海部の様相が一変した。これが最初の産業革命とされる。レンガ造りが美しいユニチカ記念館が往時の繁栄を伝える。
そして、いま、薄型テレビ産業が第2の革命を起こしているのである。
しかし、波及効果はどうなのだろうか。いま、シャープや松下、武田薬品など、名だたる企業を誘致する競争が熾烈化している。各自治体は多額の助成金や税の減免などの優遇策を掲げ、首長が企業を訪問するなど努力してきた。
松下のような世界的企業になぜ、多額の公金を与えるのかと感じるが、雇用や税収、地元企業への波及効果が期待通りなら、手厚い支援策への理解につながる。そこは検証が必要だ。 ■加藤正文・尼崎南部再生研究