歴史入門の決定版 リメンバー副読本

中学校の副読本「尼崎の歴史」を覚えているだろうか。地元住民に聞いても「そんな本あったっけ」と記憶はおぼろげ。しかし改めて手に取ると、その完成度の高さに驚く。ビギナーに最適、読みごたえ十分の良本だった。

大人になってからこそ読み返したい1冊

中学生のお友だちがいない人は市内の図書館や史料館でどうぞ。

尼崎の通史を中学生でも理解できるよう平易な表現で全140ページ、と実にコンパクト。1時間もあれば読破できる。民衆目線での描写に力が入っており、中でも、自らの命を賭して飢饉にあえぐ尼崎を救った義民「三平伝説」は感動すらさそう。

編集したのは「尼崎中学校社会科教育研究会」。先生たちの力作だ。「身近な歴史を知って欲しい」と1956年に初版発行。以来2度の刷新を重ねて現在の形に行きついた。

2度目の改訂にかかわった難波誠さんは、発行当時を知る数少ない一人だ。「夏休み返上で公民館に集まって勉強会をしたり、熱心な先生に引っ張ってもらった」。しかし、「実際の授業では教えることが多くて、この本を使うのはなかなか難しい」のだとか。同じく改訂にかかわった大門貞憲さんによると「保護者や地域の人からも『譲ってほしい』という声がある」と隠れた人気を誇る。

しかし市財政難で、来年度から全生徒への配布は廃止される。ますます貴重になる歴史本。押入れで眠っている一冊があるなら、引っ張り出して読んでもらいたい。

時代を超えるロングセラー

1956年発行
巻頭から「工場では働いても働いても賃金は上らない。私達の生活は決して楽ではない」と憂いからはじまり、労働運動に多くの頁が使われている。工都の矛盾を問う一冊。


1971年発行
1965年に発掘された田能遺跡を大胆にデザインした表紙。多くの出土品が発掘されたこともあり、古代史が格段に充実している。巻末は公害問題で締めくくられている。


1985年発行(現行版)
A4版にサイズ拡大と同時に、通史主体からエピソード重視に大幅改編。20本のコラムに阪神大震災の経験も加筆するなど、初版から21刷を数えるロングセラーである。