THE 技 仏壇に命吹き込む職人の仕事。

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

工場が立ち並ぶ長洲にある伊藤佛檀店。お仏壇の産地として有名な彦根出身の先代が始めた店は、創業から45年を数える。2代目の伊藤正夫さん(59)は、20才頃から修業を始めた。今や尼崎では数少ない職人だ。

伊藤佛檀店
長洲本通1-14-47 06-6489-4862

最近多いのは修理の注文。すすけたり金箔が剥がれたりした仏壇を再生する仕事は「洗い」と呼ばれる。過去に手がけた最古のものは、江戸末期の品というから驚きだ。

すべてを一度解体し、剥げた漆も落とす。「ネズミにかじられた穴も埋めます」と伊藤さん。ここに新たな漆(うるし)を塗り、金箔を貼っていく。職人が最も得意とする仕事だ。

漆塗りは、白い顔料の胡粉付け、研摩、中塗り、上塗りなど9の工程からなる。「ホコリは厳禁」という緊張した作業は、店の前を走る車が立てる細かなホコリをも避け「夜中に起きて塗ることが多い」のだとか。部屋は高湿度に保つ。夏場には過酷な作業だ。

この日は金箔を貼る作業中。短冊上に切った一枚一枚を、慣れた手つきで次々と並べる。息がかかるだけで飛んでしまいそうな薄さ。見ているこちらにも緊張感が伝わってくる。修理にかかるのは1ヵ月から長くて半年。丁寧に「洗われた」仏壇は新品と変わらぬ姿へとよみがえる。

帰り際、奥さんの政枝さんが教えてくれた。「お仏壇は亡くなった人だけじゃなく、今を生きる私たちのためのものなんですよ」。手を合わせ、日々を感謝。職人の技に見入るうちに、忘れがちな習慣を思い出した。


okamammoth
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。