サイハッケン 尼崎にローラースケート場があった。

長く住んでいても意外と知らないまちの愉しみ。「へえ~」と目からウロコの再発見!
ディープサウスの魅力をご堪能ください。

手すりで囲まれたコースは1周が約80メートル。ちょっとした運動会もできそうだ。

コース路面に激しい戦いの跡…は特に見当たらない。

武庫川からほど近い大島3丁目にある南の口公園。巨大なピンクのタコが砂場に居座るこの場所を地元では「タコ公園」と呼ぶ。タコをぐるりと取り囲むコンクリートの小道。まるで小さな陸上競技トラックのようだ。これはいったい何だろう。

公園が整備された1960年代。世間ではローラーゲームが大流行、小さなトラックを猛スピードで抜きつ抜かれつ目まぐるしく駆け巡るこの新しいスポーツに人びとは熱狂した。南の口公園はこの真っただ中に作られた。そう、砂場の周囲を取り囲む道は、ローラースケートコースだったのだ。地元の人々によると「当時はスケート靴を持って遠くから滑りに来る子もいたほど」だったとか。

すべり台で遊ぶ保育園児と、ローラースケートコースを歩く老婆の姿。まさに老若男女対応型公園なのだ。

しかしブームは続かず、あっという間に下火に。80年代半ばには、踊って歌うアイドルグループ「光GENJI」のブレイクで、ふたたびローラースケート人気が到来し、南の口公園ブーム再燃…とはならなかった。こうして、ここがローラースケートコースだったことは、人びとの記憶の片隅に追いやられてしまったのだ。

そして今。「子どもらはラジコンを走らせたり、自転車の練習に使ってますね」と結婚以来公園近くに住む永宗節子さん(54)は教えてくれた。

数年前からは、地域の盆踊りにこのコースを使う。老若男女がタコを囲んでぐるぐる踊りまわるのだという。取材ではさらに、手すりを使って歩行訓練をするお年寄りの姿にも出会えた。使い方は変われども、そこにやってくる人たちがいるかぎり、公園は生き続けるのである。


南の口公園

巨大なピンクのタコ型滑り台が独特の存在感をはなつ。●大島3-11-1


永井純一
1977年尼崎生まれ。現在、関西大学ほか非常勤講師。専門は文化社会学・メディア文化論。