THE 技 二次元と三次元を往復するアクロバシー

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

古典水墨肌絵師―今回ご登場いただく「技」の持ち主・二代目彫壽(ほりじゅ)氏の名刺にはそう書かれている。お気づきの通り、その職業は「彫り師」である。

古典水墨肌絵師 二代目彫寿
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スタジオと呼ばれるこの場所での仕事が始まったのは1970年のこと。師匠であり父親である初代が開いた。その父親に入門したのは15歳の頃。きっかけと呼べるようなものはなく、「魚屋の息子が魚屋を継ぐように、ごく当たり前に“家業”を継いだ」と話す彫壽氏の口調は、こちらの好奇心をかわすように穏やかだった。

彫り師の修業はまず、道具の手入れに始まる。彫り師によって使う道具が異なるため、縫い針をヤスリや研ぎ石で磨いて作る。そして、下絵。師匠の描いたものを模写して、その作風を学ぶ。最後に、イタズラ彫りを直したりするところから、実際に人の身体に彫ることを覚えてゆく。

この道に入って既に20年以上のキャリアをもつ彫壽氏をして「一生かかる」と言わしめるのが、下絵を描く作業だ。要求されるのは美術的な技だけではない。「下絵がどんなに巧くても、それをそのまま身体に彫ったら下絵の通りには見えない。身体の微妙な凹凸に合わせて、その場で判断して変えていくんです。つまり下絵とは“違うもの”を描いて、同じものが描かれているように見せなければいけないんです」。自分で描いたものを一度解体して、最終的にまた戻す。二次元を三次元に移し替えるアクロバシーには、どれほどの集中力が必要とされるのだろう。

国道43号線に面した住宅街の一角という現在の場所を、しばらく移るつもりはないという。和彫りの場合は時間をかけて彫っていくため、3年に1度暇ができたら、という人もいる。店を移らないのは、「いつ来ても同じ場所で同じように座ってるよ」というメッセージなのだ。こうして、彫り師の技はアマで磨かれ続けていく。


大迫力
1980年出屋敷生まれ・立花在住。出版社を経て、現在は編集者&ライター集団「140B」所属。