マチノモノサシ no.17 コミュニティFMの経営事情と存在意義

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

事業収入6割減で壊れかけのラジオ

今年6月、コミュニティFM「エフエムあまがさき」閉局のニュースが飛び込んできた。コミュニティFMは、1992年に総務省により制度化され、95年の阪神・淡路大震災では停電でも聞くことができる防災メディアとして注目され、全国で開局が相次いだ。そんな開局ブームのさなか、96年10月に同局も誕生している。

災害伝える地域密着型メディア

一般のFMとコミュニティFMはどう違うのだろう。「地域の活性化等に寄与することを目的として、超短波(FM)放送により、市区町村の一部の区域において、地域の話題や行政、観光、交通等の地域の需要に応えたきめ細かな情報等を提供する地域密着型メディア」と総務省資料にある。

無線局免許を持つものの放送出力を20ワット以下に抑えられているため、受信エリアは限られている。尼崎では市役所屋上の送信アンテナから発信され理論上は市内全域をカバーしているが、実際は電波が届きにくいエリアもある。

自治体とコミュニティFM局は、災害放送に関する協定を提携し、災害時に速やかかつ優先的に災害情報を伝える体制を約束している。そうした公共的な役割を持つ局のほとんどが、自治体からの業務委託を受けそれが事業収入の一定の割合を占める。尼崎市では同局に対して年間約4000万円で業務委託をしてきた。

聴取率と番組制作の“コスパ”

委託内容は、市政情報番組の放送だ。番組表を見ると、市からのお知らせ番組は全部で5本ある。月曜日から金曜日まで、一日3回15分間ずつ放送されている市のお知らせ情報番組「みんなの尼崎情報局」や外国語放送の「AMAGASAKI TOWN GUIDE」など。

業務委託費は市全体の広報予算の3割を占めているが、放送を一体どれだけの市民が聴いているのだろうか。市はネットアンケートを実施し、日常的に聴取する人を市民の約2%としている。市から局への委託費はひと月あたり330万円ほど。市政情報に関する5番組の総放送時間は1カ月30時間ほど。1時間あたり11万円で番組を放送しているということになる。これを高いと見るか、安いと見るか。

減少続けるスポンサー料収入

市からの委託費以外の収入はなかったのだろうか。グラフでは株式会社から公益財団法人尼崎市文化振興財団へと運営が移行した2009年からの放送事業収入(委託費をのぞく)の推移を示している。内訳は主に企業からのスポンサー料だ。当初2千950万円あった事業収入はじわじわと減少し、21年にはコロナによる影響で1400万円と厳しい状況だ。

しかしいわゆる“コスパ”だけでコミュニティFMの価値を測っていいのだろうか。本来の開設目的は「地域の活性化等に寄与すること」のはず。では、果たして同局はそんな目的に寄与してきたのだろうか。

ラジオでつなぐ尼人たちは今

2002年より、エフエムあまがさきでパーソナリティを務める三宅奈緒子さん。「市は聴取率2%と言うけど、そういう数字で測れないリスナーさんがいるんですけど…」と複雑な心境を語る。毎週金曜15時から番組を担当し、20年続く名物コーナー「みやけなおこと尼人達」では、尼崎のまちをカメラ片手に歩き市民との出会いを伝える番組づくりで、まさに「地域密着」を体現してきた。

毎年、取材で出会った人との交流を写真に収め、総合文化センターで写真展を開催する三宅さん。期間中には500人以上のリスナーやその家族が足を運ぶ。「長年聞いてくれているリスナーさんとはファミリーのような感覚で、毎月のお便りで近況報告をくれたり…」という彼女の活動を惜しむ声もリスナーからは寄せられ、局の存続を求める署名活動もはじまっているという。